2007年12月15日土曜日

理系白書’07:第3部・科学者の倫理とは 私の提言/上 浅島誠・東京大学副学長

(毎日 12月2日)

科学者は、いわゆる「象牙の塔」にいて、社会と距離を置いてきた面がある。
だが、今は、先端的な医療技術が生命倫理を巡る議論を引き起こすなど、
科学技術が社会生活に大きな影響を与える。
地球温暖化問題のように、一分野の科学の域を超えて
政治的、社会的な問題になっている分野も。

社会に対するインパクトが増大するにつれ、科学者の責任も大きくなっている。
にもかかわらず、近年、国内外の著名な大学や研究機関で、
論文データの捏造などの不正が続発。

不正行為は、「どんな業界にもルールを破る人はいる」と、
軽く見過ごすことはできない。
科学者コミュニティー全体、ひいては科学という
営み自体に対する信頼を損なうことに。

国民から、「科学者に任せておいたのでは、何をするか分からない」と
思われていては、社会生活に直結するような研究は成り立たない。

そこで、科学者コミュニティーを代表する日本学術会議が
06年にまとめた「科学者の行動規範」では、
自ら規範を示してそれを守っていく「自律と説明責任」の大切さを強調

研究を束縛・規制するものではなく、
科学者が自律性を発揮し、透明性を高めていかなければ、
国民の信頼を取り戻すことができず、結果的に研究も進められない、
というメッセージだ。

大学の独立法人化などで、研究環境は大きく変わった。
最近は、科学コミュニティー全体が研究費を獲得したり、
次のポストを得るために、何かに追われるように
仕事をしているように感じられてならない。

短期間で成果を求める傾向が強まり、
不正行為の背景となる側面がある。
研究効率を求めるあまり、極端な分業体制を取り入れると、
隣の人が何をしているのかも分からなくなる。
指導者の望み通りの結果が出れば、十分な検討や議論もないまま
発表するというようなことも起こりうる。

重要なのは、研究室をオープンな雰囲気にすること。
指導者の主張や隣のグループの実験結果にも、
自由に議論ができる雰囲気があれば、
データ捏造やアカデミックハラスメントなどの問題は起こりにくい。
日ごろからそういう雰囲気に慣れていれば、
学会の場でも感情的にならず、学問上の真の批判や討論ができる。
これが、専門家による相互チェック機能として働き、
疑念を持たれるような研究は淘汰される。

本来、科学の研究とは知的冒険であり、独創性を持って
自らの課題に挑戦し情熱を傾けることのできる楽しい作業であるはず。
若い研究者がいきいきと希望を持って研究できるような環境を、
自分たちが主体となって社会と一緒に作っていかなければならない。

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■人物略歴

44年生まれ。東京大教養学部長などを歴任。専門は発生生物学。
89年、受精卵がさまざまな器官に分化するのを誘導する物質
「アクチビン」を発見。日本学術会議副会長も務める。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2007/12/02/20071202ddm016040053000c.html

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