2007年12月11日火曜日

大腸がんの細胞増殖を抑制するmiRNAを発見

(nature Asia-Pacific)

国立がんセンター研究所生化学部 中釜斉副所長
土屋直人研究員、田澤大研究員

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RNAの研究が進むにつれて、タンパクをコードしない
ncRNA(non-coding RNA)の役割が注目。

代表的なncRNAの一つであるmiRNA(micro-RNA)については、
細胞の増殖やアポトーシスなどとの関係が徐々に明らかになり、
とくにがんの発生や増殖に関する研究が盛ん。

実験的に用いるsiRNAは、特定の遺伝子のmRNAに結合して
mRNAを分解するのに対し、
miRNAの場合は標的となる遺伝子が1種類のmiRNAにつき
100~200種類あると推定。
miRNA前駆体は、ヘアピン型のループ構造を持ち、
最終的に成熟したmiRNA が、RISC(RNA induced silencing complex)
と呼ばれる、タンパク・核酸の複合体とともにmRNAに結合し、
mRNAからタンパクへの翻訳を抑制する。

ヒトmiRNAは、現在500種ほどが同定されているが、
未知のmiRNAがさらに同数ほど存在する可能性が。

国立がんセンター研究所の中釜斉副所長らのグループは、
大腸がんに関して、培養細胞の増殖を抑制し、
患者のがん組織で発現低下しているmiRNAを同定。

大腸がんの培養細胞HCT116を、アドリアマイシン100ng/mlで処理して
細胞増殖を抑制し、16時間後に発現上昇しているmiRNAの同定を試みた。
アドリアマイシンは、DNAにダメージを与える作用があり、抗がん剤として使用。
100ng/mlでは、HCT116細胞の増殖は止めるが、アポトーシスは起こさない。
解析したmiRNA157種類のうち、アドリアマイシン処理後に
発現が2倍以上に上昇したものは、7種類。

反復実験により、再現性をもって発現誘導されるものとして、
miR-34a、miR-34b、miR-34cのmiR-34ファミリーを同定でき、
最も安定的に発現していたmiR-34aは、
アドリアマイシン処理後8時間で約3倍、48時間で約10倍にも増加。

この結果、miR-34ファミリーは細胞増殖と関係するmiRNAと考えられた。

大腸がん培養細胞HCT116では、がん抑制遺伝子p53が正常に働き、
アドリアマイシン処理後、miR-34a発現量の増加に先行して、p53が蓄積。
p53が変異している別の大腸がん培養細胞では、
アドリアマイシン処理後もmiR-34aが誘導されないことから、
「大腸がんでは細胞増殖の停止の際、miR-34aがp53蓄積に連動して働く」。

miR-34aが細胞増殖を止める可能性を検証するために、
HCT116と別の大腸がん培養細胞RKO(p53は野生型)に
それぞれmiR-34aを導入したところ、予想通り細胞増殖が抑えられた。
このときの遺伝子発現変化を、マイクロアレイで網羅的に調べると、
発現が抑えられた287遺伝子の中に、細胞周期や細胞増殖に関わる
E2F転写因子E2F-1、E2F-2と複数のE2Fターゲット遺伝子が含まれていた。

E2F-1のタンパク量についてHCT116とRKOで調べると、
miR-34aの導入により発現が抑制されることが確認。
miR-34a未導入細胞(コントロール群)と比べ、
導入細胞では細胞周期が止まり、細胞そのものが肥大化。
これは、細胞老化に特徴的な現象であることから、
細胞老化の指標であるSA-β-ガラクトシダーゼで染色すると、
老化様の変化を起こしていた。

「miR-34aは、E2F転写因子やそのターゲット遺伝子の発現を
抑制することで、細胞の増殖を止め、がん細胞を老化様に変化させる」。

ヌードマウスに、大腸がん培養細胞を移植して腫瘍を形成させ、
miR-34aを導入したところ、HCT116細胞では6日間、
RKO細胞では4日間、腫瘍の増殖がほぼ停止。

国立がんセンター中央病院で施行された大腸がん手術で得られた
大腸がん組織検体25症例中9症例(36%)で、miR-34aの発現低下。
「大腸がんでのp53遺伝子変異の頻度が4~5割であり、
36%というのは高い数値」。

世界の6グループから、p53による細胞増殖抑制やアポトーシス誘導作用への
miR-34の関与を示唆する論文が発表。
miR-34のp53による発現制御に関しては意見が揃いつつあるが、
miR-34aの細胞増殖抑制や細胞老化・アポトーシス誘導のメカニズムは未解明。

生化学部では、すでに大腸がん以外の培養細胞でも
miR-34aが細胞増殖を止めることを確認。

「今後は、miR-34aが細胞増殖を止めるメカニズムと発がんとの関連を解析し、
miR-34aによる細胞増殖抑制にRISCがどう関わっているかを明らかにしたい」。
miR-34aを突破口に、発がんの新たなメカニズム解明に向けて、
研究が始まっている。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=62

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