2008年4月14日月曜日

iPS細胞:21世紀の生物学、最も重要な成果 2博士に聞く

(毎日 4月13日)

山中伸弥・京都大教授らが作成した「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」は、
成長する前の受精卵のように、さまざまな臓器や組織になる能力を持つ。
受精卵や卵子を用いるクローン技術を使わないことが特徴。
英エディンバラ大のイアン・ウィルムット博士と
ケンブリッジ大のジョン・ガードン博士にインタビュー。

◇病、薬、貧しい国にも光--イアン・ウィルムット博士

--成果の評価は。

生物学分野では、21世紀における最も重要な一つ。
抗生物質の発見に匹敵。
クローン技術を使って、胚性幹細胞(ES細胞)を得る方法とは
全く違う新しい機会を山中氏は提示。

成果を初めて聞いたのは06年6月、トロントの国際学会。
わくわくした。空中に浮かんでいるような気持ちになって、
英国に帰るのに飛行機がいらなかったほど(笑い)。
私の人生で最も大事な転換点。

--ヒトiPS細胞作成の発表直前、「クローン研究をやめる」と報じられたが。

事実だ。私たちは、ヒトクローン胚からES細胞を作るつもりはない。
理由は二つある。
一つは、山中氏の方法への科学的な関心。もう一つは現実的な理由で、
今の手法では研究を続けることが難しいと分かった。
先月初めから、チームの一人が山中氏の方法で実験を始めている。

--体細胞を受精卵のような状態に戻す方法は、どれが最適か。

山中氏の方法は、現時点では最も有望と思う。
もちろんこれは楽観的な見方で、改良する余地もある。
山中氏の方法を進めつつ、核移植を使う方法を改良していくのがいい。

--研究の将来像は。

パーキンソン病やアルツハイマー病、多くの遺伝性の病気の患者にとって、
細胞を採取して3週間後には、自分の治療に使える多能性細胞が
できるなんてすごいこと。
この研究の過程で、患者の細胞と同じ性質を持った細胞を使って
病気の解明も進む。
どの遺伝子、どの分子が影響するかが分かれば、
その働きを阻害する物質が薬になる。
研究成果を、貧しい国々の患者にも届けられる。

--シンポジウムに期待することは。

ガードン博士は、1960年代~70年代、私は90年代、
山中氏は2000年代に大きな仕事をした。
この分野の歴史が東京で一堂に会する。
ドリーの実験で一緒に働いたキャンベル博士は、ガードン博士に影響を受けた。
山中氏も、私たちの研究に何らかの影響を受けただろう。
誰かが新しい部屋へのドアを開けることによって、
他の人に新しい見方を示し、新しい段階へと進歩していく、
これが科学だ。

◇クローン技術と連携有効--ジョン・ガードン博士

--山中氏の成果をどう感じたか。

驚いたし、注目すべき成果だ。
皮膚などの体細胞はいったん成長してしまうと、容易に最初の状態に戻らない。
それだけに彼の成果は重要で、将来性がある。

--あなたは核移植の専門家だが。

そうだ。しかし、山中氏の手法が幹細胞を得る最良の手段。
核移植には、卵子を使わなくてはいけない。
ヒトの卵子を多く入手することは難しい。異常も多く生まれる。

--クローン研究は必要なくなるか。

山中氏の方法は全く新しいやり方だが、
体細胞とは関係ない遺伝子を導入しなくてはならない。
遺伝子を導入せず、卵子も使わずに最初の状態に戻す方法があれば理想的。
クローン研究によって蓄積された成果が貢献する。
両方の組み合わせや連携が効果的だろう。

--山中氏の方法を試してみる予定は。

私のチームは小さいし、日米と競合するのは賢明ではない。
私が取り組んでいるのは、核移植をした卵子の中で、
どうやって最初の状態に戻るのか、その仕組みを解明すること。
逆に、さまざまな細胞になる能力を持つ幹細胞から、
筋肉や脳、皮膚の細胞に成長したら、他の細胞に変化することはない。
なぜその状態を保っていられるのかにも興味がある。
こうした研究からメカニズムが分かれば、
幹細胞研究全体にとっても意義のある発見になる。

◇シンポ「iPS細胞研究の展望と課題」

15日午後5時から、東京都渋谷区の津田ホール。
英国大使館、スコットランド国際開発庁共催で、
「UK-JAPAN2008」公認イベント。
ガードン、ウィルムット両博士と山中教授による特別講演とパネルディスカッション。
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◇イアン・ウィルムット博士

1944年生まれ。英ロスリン研究所在籍中の96年、
成長したヒツジの乳腺の細胞を使ってクローン胚を作り、
別のヒツジの子宮に入れて出産させることに成功。
誕生した子羊はドリーと名付けられ、世界初の哺乳類のクローンとして注目。
現在、エディンバラ大学再生医療センター所長。
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◇ジョン・ガードン博士

1933年英国生まれ。62年、アフリカツメガエルのオタマジャクシの
小腸細胞の核を、核を除いた未受精卵に移植し、
その卵がオタマジャクシになったことを報告。
その後、成長したカエルの細胞でも成功し、体細胞から一匹の個体が
発生しうることを初めて証明。
現在、ケンブリッジ大ガードン研究所所長。

http://mainichi.jp/select/science/news/20080413ddm016040015000c.html

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