2008年4月11日金曜日

ヤマナカ、世界動かす 新万能細胞iPSの真価/1

(毎日新聞社 2008年4月7日)

人工多能性幹細胞(iPS細胞)を人の治療につなげようという競争は、
06年初夏に始まった。
山中伸弥・京都大教授が、マウスの皮膚からiPS細胞を作ったと発表。
世界有数の幹細胞研究の拠点、米ハーバード大にも大波が打ち寄せた。

「あのころは、エレベーターでも『ヤマナカ、ヤマナカ』と持ちきり。
だれも思いつかない方法で、教科書を書き換える成果を上げた」。
同大で幹細胞を使った腎臓病の解明に取り組む長船健二さん(37)。

それから2年、同大幹細胞研究所は患者自身のiPS細胞を既に作成。
同研究所で、iPS細胞研究に取り組むコンラッド・ホッケドリンガー准教授は
「難病の治療や解明に役立つノーベル賞級の成果に、
米国の多くの研究者がいや応なく巻き込まれた」。

iPS細胞に反応したのは研究者だけではない。
米ホワイトハウスは07年11月、ヒトiPS細胞作成が発表された当日に
「倫理的な研究の前進に大変喜んでいる」と異例の声明。
ブッシュ大統領は、今年1月の一般教書演説で
「医学の未開拓だった分野へと広がっていく。資金援助したい」。

ローマ法王庁(バチカン)も、
「人(受精卵)を殺さず、多くの病気を治すことにつながる重要な発見」。
いずれも、受精卵を壊して作る従来の「胚性幹細胞(ES細胞)」研究に反対。

政治、宗教にも対応を迫る科学の発見。
ハーバード大幹細胞研究所を率いるダグラス・メルトン教授は、
「大胆な実験によって得られた近年では、非常に重要な成果。
ヤマナカは、壁かもしれないところをたたいて回り、新しいドアを見つけた」。
米タイム誌で昨年、「世界に影響を与える100人」に選ばれた
世界的な幹細胞研究者は称賛を惜しまない。

同大の幹細胞研究所を歩くと、アジア系、ヒスパニック系など
さまざまな人種の研究者と出会う。
患者自身のiPS細胞を作ったチャド・コーワン准教授は、
「欧州の友人も、iPS細胞研究を始めた。
従来の幹細胞に比べ大幅に扱いやすいので、
世界中の大学で、この技術を教え始めるだろう」。

iPS細胞は、特別な研究者、機関でなければできなかった
研究の敷居を下げた。

この分野の研究が、世界各地で進展することを意味。
米カリフォルニア州は、今後10年で幹細胞研究に約3000億円を支援。
山中教授と同時に、ヒトiPS細胞作成に関する論文を発表した
米ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授は昨年末、
「iPS細胞はすべてを変えたが、これだけで難病治療が成功するとは限らない。
選択肢が出てきた今こそ、ES細胞などの研究を進めることが必要」。

米国だけでも、iPS細胞だけでもない。
新万能細胞の登場をきっかけに、世界が大きくうねり始めた。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=70502

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