2008年4月12日土曜日

異例のジャパン総力戦 新万能細胞iPSの真価/2

(毎日新聞社 2008年4月8日)

人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、ヒトの皮膚から作ったという
山中伸弥・京都大教授らの発表から2週間後、
文部科学省の徳永保・研究振興局長は財務省で
担当主計官と向かい合っていた。
「国民の期待が高まっている。何とか上積みしてほしい」

iPS細胞は、再生医療を大きく前進させる可能性。
08年度予算の財務省原案内示まであと10日あまり。
徳永局長は、再生医療研究支援の概算要求額(15億円)の増額を求め、
大臣折衝を経て20億円が予算化。
「30年以上役人をやっているが、財務省査定で予算が増えたのは記憶にない」。

日本の科学技術政策に携わる者にとって、苦い思い出、
ヒトゲノム(全遺伝情報)解読計画」。
DNAに記録されたヒトの全遺伝情報を機械で読み取る構想は、
日本の研究者が提案。

だが、国としての支援が遅れた結果、
米国企業が読み取り装置を先行して開発、日本の貢献度は6%に。
「独創のタネはあっても、育てるのが下手」。
日本に押された烙印。

iPS細胞を巡る政府の対応は、「異例の早さ」。
ヒトでの作成発表から、わずか1カ月で文科省は総合戦略をまとめ、
今後5年間で100億円の支出を決めた。
基礎研究と距離を置く厚生労働省、経済産業省も支援策を決定、
「オールジャパン」態勢を整えた。
希望する研究者に、実費でマウスiPS細胞を分配する事業も始めた。

政府の支援策を検討した昨年12月の総合科学技術会議の前日、
議長の福田康夫首相も「支援策の説明を非常に熱心に聞いていた」。
誰も異論をはさめない「突出した成果」に加え、
「世界と競争しているという構図が理解しやすかった」
(須田年生・慶応大医学部教授)。

「異例」は、これだけではない。
日本では、胚性幹細胞(ES細胞)研究指針で、
ES細胞の利用に、国と研究機関の二重審査など厳しい規制。
「受精卵を壊す」という倫理問題に慎重に対応するため。

だが、総合科学技術会議はiPS細胞研究を進めるために
ES細胞研究は欠かせないとし、審査の簡略化を求めた。
「長年の議論を簡単に覆してよいのか」。
官僚の間には戸惑いもある。

一方、拒絶反応が起きない再生医療の細胞作りに有望とされていた
クローン技術などで、研究費打ち切りという事態。
「全体のパイはあまり変わらない。iPSに流れただけだ」。
世界との競争を背景に、iPS細胞研究は「錦の御旗」に。

山中教授は、「科学的な研究で、日本の独り勝ちはあり得ない。
すべての患者に役立つ治療につながる成果をいち早く出すこと」。
過去の失敗を教訓に、日本の生命科学研究は飛躍できるのか。
その岐路に立っている。
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◇iPS細胞研究への国の支援策

文科省は、研究の中核として京都大の「iPS細胞研究センター」や
東京大、慶応大、理化学研究所を拠点に選定し約10億円を投入。
若手研究者育成なども行う。
厚労省は、iPS細胞を使った医療の実現に向けた安全基準作り、
経産省は産業創出や特許管理支援などに取り組む予定。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=70542

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