2011年5月29日日曜日

創造的復興へ 「構想会議」がビジョン作り

(毎日 5月11日)

戦後最大の災害となった東日本大震災から2カ月。
被災地の生活基盤の再建には程遠く、福島第1原発の周辺住民の
強制的な避難が続くなど、被災地は厳しい状況が続いている。

政府は、「東日本大震災復興構想会議」を立ち上げ、
東北をよみがえらせるビジョン作りに着手。
大規模な復旧予算を組んだ11年度第1次補正予算を成立させ、
復興へ向けて第2、第3の補正予算編成にも取り組む。

その財源をどうするか?
最悪の「レベル7」になった原発事故をいかに収束させるか?
放射能被害への補償は……?
前例のない災害との国を挙げた戦いが続く。

◇6月に「創造的復興」への第1次提言

菅直人首相は、復興構想会議の議長に、五百旗頭真防衛大学校長を指名。
政治学者で、神戸大教授時代に阪神大震災(1995年1月17日)に遭遇、
「ひょうご震災記念21世紀研究機構」で、災害対応や復興を研究。

議長代理には、御厨貴東大教授が総合調整を担い、
各分野の専門家を擁する検討部会の部会長には、
飯尾潤政策大学院大学教授と、復興ビジョン策定の中枢に
気鋭の政治学者が起用。

会議のメンバーには、もう一人の議長代理として、
建築家の安藤忠雄東大名誉教授や、東北に縁がある脚本家の内館牧子氏、
作家で僧侶の玄侑宗久氏ら著名人、大西隆東大教授(都市工学)と
河田恵昭関西大社会安全学部長(巨大災害、危機管理)ら学識経験者、
被災地の岩手、宮城、福島3県の知事ら計15人。
検討部会は、19人の専門家が集められた。

会議は5月中旬に論点整理をし、6月末までに第1次提言をまとめる方針。
検討部会も、同時並行して議論を進める。

4月14日の会議の初会合で、首相から諮問された五百旗頭氏は、
会議の基本方針に関するペーパーを示した。

柱は、
(1)超党派の、国と国民のための復興会議とする
(2)被災地主体の復興を基本としつつ、国としての全体計画をつくる
(3)単なる復興でなく、創造的復興を期す
(4)全国民的な支援と負担が不可欠
(5)明日の日本への希望となる青写真を描く--とした。

復興財源として、義援金と公債発行に加えて「震災復興税」を
明記したことが波紋を広げた。
五百旗頭氏は、震災復興税を第1次提言に盛り込むことは、
「国民全体で負担することを視野に入れなくてはならないが、
具体的にはこれからだ」と明言を避けたが、初会合から新税創設の議論を
テーブルに載せたことに、「官邸の代弁をしているのでは」と、
うがった見方も出た。

閣僚からも、「本来、政治の最重要課題の一つ。
学者や有識者の皆さんに、正面から論じてもらうテーマでは
必ずしもないのではないか」(片山善博総務相)など批判的な反応も。

原発災害への言及がなかったことについて、特別顧問の哲学者、
梅原猛氏は、「原発問題を考えずに、この復興会議は意味がない」と、
議論の方向性を巡り、ひと悶着ありそう。

◇10兆円超の復旧・復興財源をどうするか
◇復興再生債発行、消費増税の時限増税など検討

政府は、東日本大震災の被害額は阪神大震災(約10兆円)を
大きく上回る25兆円と試算、復旧対策費も10兆円を超えるとの見方。

5月上旬、総額4兆153億円の11年度1次補正予算が成立。
財源を国債に頼らず、民主党マニフェスト関連施策の予算を
削減するなどして捻出、6月の本格的な復旧・復興に向けた
第2次補正予算、それ以降の第3次補正予算では国債発行が避けられず、
その償還財源として消費税率の引き上げが大きく浮上。

11年度第1次補正予算の規模は、阪神大震災の1次補正額(1兆223億円)
の4倍に当たる巨額な規模。
内容は、道路・港湾・下水道の復旧(1・3兆円)、仮設住宅建設(0・5兆円)、
学校・社会福祉施設復旧(0・4兆円)、がれき処理(0・3兆円)、
特別交付税(0・1兆円)、その他緊急雇用支援、
自衛隊活動費など(1・5兆円)--。

財源は、国債増発に伴う市場への影響を極力避けたいと、
当初予算の組み替えで対応。
大きな項目として、基礎年金の国庫負担2分の1を維持するため、
鉄道建設・運輸施設整備支援機構の剰余金などの2・5兆円の
「埋蔵金」を充てず、補正予算に転用。
経済危機対応予備費0・8兆円も、被災地の緊急雇用支援に。

民主党マニフェストの子ども手当上積みの見直しで0・2兆円、
高速道路料金割引の見直し・同無料化社会実験の凍結で0・3兆円。
政府開発援助(ODA)を2割削減、0・1兆円をかき集め、
国債発行回避のための腐心が目立った。

10兆円規模の第2次補正(阪神大震災時は1・4兆円)、
第3次補正(同0・7兆円)では、1次補正の時のような財源が見当たらず、
国債発行は避けられない。
菅政権は、新規国債の「復興再生債」を発行し、その償還財源として
2~3%の消費税増税分を充てることを検討。
一般会計と切り離した「震災復興基金」(仮称)で管理する構想。

現行5%の消費税率は、1%引き上げれば2・5兆円の税収が確保、
3%の引き上げなら7・5兆円。
3年間の期間限定とすれば、22・5兆円の復興財源が期待。
政府は、11年度からの法人税の実効税率5%引き下げを見送り、
この環境下で法人税や所得税の増税に復興財源を期待することは難しい。

一般会計と切り離し、将来の償還財源を明記して復興財源を管理するのは、
国・地方合わせた中長期債務残高が900兆円近い現状で、
財源の裏付けのない「復興再生債」を出せば、
市場で我が国の国債の信用が下落し、長期金利が跳ね上がり、
国際金融市場に悪影響を及ぼしかねない。

「復興再生債」について、岡田克也幹事長は「財源は、税以外には考えられない」、
菅首相は「財政再建も含めた青写真がつくれれば本望」

政府は、6月にもまとめる「復興構想会議」の第1次提言に、
「復興再生債」プランを盛り込ませ、第2次補正予算に組み込みたい意向、
消費税増税には野党だけでなく、与党内にも異論があり、
政府の思惑通りに運ぶか不透明な状況。

◇東電にのしかかる数兆円にのぼる賠償
◇「原発賠償機構」新設を検討

東日本大震災で、福島第1原発の放射能漏れ事故を起こした
東京電力(清水正孝社長)は、原発事故を収束させるとともに、
巨額に上る事故の賠償と電力の安定供給という厳しい使命。

今回の事故の賠償額は、1私企業にはとても耐えられない数兆円規模に。
首都圏の電力供給を確保するため、東電を国有化した場合、
株主や社債の保有者が広範囲にわたり、金融市場に混乱を
招きかねないため、「国有化はせず」(海江田万里原子力経済被害担当相)、
政府として「原発賠償機構」(仮称)を新設、財源的にバックアップ。

東電は、福島第1原発の事故に伴って避難した住民に対し、
賠償金の仮払いを4月中に開始。
原子力損害賠償法に基づく賠償には時間がかかるため、
当面の生活資金として1世帯100万円、単身者には75万円を、
市町村の窓口を通じて支払った。

対象は、第1原発から半径30km以内、政府の指示で避難や屋内待避を
している12市町村の4万8000世帯。
20km以上でも、計画的避難区域となっている2000世帯にも支払われ、
計5万世帯の約8万人が対象。

仮払いの総額は500億円。
風評被害を受けた農林漁業、商工業者への仮払いは見送られた。

数兆円ともみられる巨額の損害賠償は、一義的には東電が行うが、
政府が「原発賠償機構」(仮称)を新設し、賠償の財源は
国が拠出する交付国債や金融機関からの融資で賄う。

東電は、リストラなどで捻出する自己資金に加え、
同機構から当面の賠償資金を借り、分割して返済。
同機構は、東電の優先株を取得して、東電の経営を監視。
交付国債は、必要な時にだけ現金化できる国債で、数兆円規模になると
みられるが、東電の分割返済分は同機構から国庫に返納され、
国には最終的な財政負担は発生しない仕組み。

東電は、今回の事故でメガバンク3行などから2兆円の緊急融資を受けている。
東電株式の44%が、お年寄りなどの個人所有、社債発行残高も5兆円近く、
国有化による経営破綻は金融機関の焦げ付きを招き、
金融市場への影響が大き過ぎるとして、新機構を作って損害賠償を
バックアップしていく。

新機構は、今回の事故の損害賠償に対応する勘定と将来の事故に備える勘定を
分離して管理し、後者には原発を保有する他電力会社も負担金を出す形。
新機構は、東電の優先株を保有し、徹底的なリストラを促す。

東電は毎年、約5兆円の電気事業収入、約3兆円の純資産を保有。
例年2000億円~4000億円の経常利益を出し、
年間2000億円程度の返済は可能。

東電は、保有しているKDDI株の売却を決め、賠償原資の捻出に向け、
役員、管理職の報酬削減、社員の年収カットや業務のスリム化など、
徹底的なリストラを図る方針だが、電気料金の値上げも今後取りざたされる。

電力供給不足から、大震災直後に実施した計画停電で、
首都圏に大混乱を巻き起こした反省から、東電はこの夏、
計画停電は実施しないと言明。

この夏のピーク時、5500万~6000万kwと予想される電力需要に対し、
供給力は5500万kwしか確保できていない。
工場などの大口需要家に使用電力を減らすよう求め、
家庭についても節電を求めている。

4月8日、政府が発表した夏の電力不足対策の骨格では、
東電の夏場の供給力が4650万kwしか見込めず、大口需要家に対し、
ピーク時の使用電力を昨年より25%削減するよう求め、
家庭についても15~20%の削減目標を設けた。

4月21日時点で、ガスタービン発電の新設や茨城・福島両県の
火力発電所の復旧により、850万kwの供給力を上積み、
需給バランスはかなり改善。

昨夏のような猛暑になれば、電力不足になることは目に見え、
政府は夏期休業の長期化、分散化、家庭でのこまめな消灯など
節電対策を求めている。

◇原発事故が突きつけた地球規模の課題
◇根拠乏しい事態収束の工程表

福島第1原発について、東電は4月17日、収束まで6~9カ月という
工程表を示した。
日程に具体性はなく、不確実な要素も多いが、今以上に事態が深刻化する
当面の危機は去ったと受け止める。

拡大する被害への補償、避難住民の帰宅に加え、
エネルギー不足や地球温暖化という、原発事故が突きつけた
地球規模の課題にどう対処していくのか?
日本が試されている。

東京電力は工程表で、今後3カ月を「ステップ1」とし、
放射線量を着実に減少させることを掲げた。
その後、3~6カ月を「ステップ2」とし、放射線量を大幅に抑える。
目標とする冷温停止とは、原子炉内の水を100度以下に保ち、安定化。

この収束への道筋を2段階で示し、その中で原子炉冷却や放射性物質の
拡散防止など63項目の具体策を挙げ、
(1)原子炉冷却
(2)燃料プールの冷却
(3)汚染水対策
(4)大気・土壌での放射性物質抑制
(5)避難地域での放射線量低減--
の課題別に対策を公表。

原子炉冷却では、ステップ1で原子炉圧力容器の外側の格納容器まで
大量の水を注入し、燃料の温度上昇を抑制。
この水は、高濃度放射性汚染水のため、同じ水を繰り返し使って
冷やせるよう、外部に熱交換器を設置することも検討。

1号機で実施している格納容器への窒素注入を2、3号機でも行い、
水素爆発の危険性を取り除く。
これらの対策をステップ2まで継続し、原子炉の冷温停止を目指す。

原子炉の本体をまるごと水で冷やす方法は、チェルノブイリ事故
(旧ソ連、1986年)のようにコンクリートで埋める「石棺方式」と対比し、
「水棺方式」と呼ばれる。
格納容器から水が漏れ出したとしても、原子炉建屋からは漏れないことが必要。

現状でも、高濃度汚染水が漏れている可能性があり、
その原因は突き止められていない。
本当に実現できるのかについて、専門家からは疑問の声。
海江田経済産業相も、「どうしても作業は遅れがちになる」と、
計画通り進まない可能性が高いことを認めた。

工程表には、核燃料取り出しや解体など、中長期的な見通しは示されていない。
対策にいくらかかり、どう賄うかについても、東電の勝俣恒久会長は、
「収束させるために、やれることからやっている。
費用の計画を立てている段階ではない」

拡大する被害の補償について、枠組みの検討が始まったところ。
原子力損害賠償法に基づく被害補償の指針を作る、
文部科学省の「原子力損害賠償紛争審査会」の初会合が4月15日。
身体被害や営業損害、避難費用など補償対象の大まかな項目を、
7月末までに作ることを目指す。
99年、東海村の臨界事故では、補償の最終決着に10年8カ月かかった。
規模ではるかに上回る、今回の事故の決着には一層の長期化が予想。

避難住民の帰宅についても、混迷を極めている。
政府は4月21日、福島第1原発から半径20km圏内に、
立ち入り禁止や退去を命令できる「警戒区域」を設定。
22日、この外側に当たる福島県飯舘村や葛尾村などを
「計画的避難区域」に指定。

警戒区域だけでも、2市6町2村の約8万人が居住。
福島県の佐藤雄平知事は、「1日も早く避難者が
ふるさとに帰れるようにしてもらいたい」と要請、
住民帰宅への道筋が、いつ示せるかは不透明。

東電の勝俣会長は、「ステップ2で、ある程度分かるようにしていきたい」
工程表自体のスケジュールも、不確定な要素が多いことから、
事実上、年内の帰宅は難しい情勢。

福島原発の事故は、これら見通しの立たない国内問題だけでなく、
地球規模の課題も突きつけた。

国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の発電総量は
2008年で約2000万GWh。
火力が約67%、水力16%、原子力13%、自然エネルギー4%。

中国やインド、ブラジルなど新興国の経済成長にともなって、
世界のエネルギー需要は右肩上がり。
多くの新興国や途上国は、火力発電が中心。

原子力の比率が高い国は、フランスの80%を筆頭、韓国38%、日本28%、
ドイツ27%など、先進国に偏っている。
今回の福島原発事故をきっかけに、ドイツが80年以前に稼働した
老朽原発7基の運転を、3カ月間停止する措置に踏み切るなど、
今後、世界各国での原発離れが進む。

火力発電への依存が高まるとの見方が広がり、原油や天然ガス、
石炭の国際価格の高騰を招いている。
新興国を中心とする旺盛な需要で、エネルギー価格はいっそうの上昇も。

◇後退懸念される温暖化対策

化石燃料への回帰で問題になるのが、地球温暖化。
火力発電所は、地球温暖化の原因となるCO2を大量に排出、
原発は運転中にはCO2をほとんど排出せず、
地球温暖化対策の切り札として位置付け。

東日本大震災により被災した原発14基の運転が再開できず、
計画中の原発9基も新設できなかった場合、2020年における
CO2などの温室効果ガス排出量は90年比で10%増加。

震災後、気候変動枠組み条約の作業部会に出席した
同省の南川秀樹事務次官も4月3日、「20年までに90年比25%削減」とした
日本の温室効果ガス削減目標について、「見直し議論の対象となる」

年末、国際的な地球温暖化防止の枠組みを話し合う
同条約第17回締約国会議(COP17)が、南アフリカで開かれる。
東日本大震災の復興途上の日本が、国内問題を乗り越え、
エネルギー問題や地球温暖化に対し、どのようなメッセージを
世界に発信できるのか?
日本が問われている。

http://mainichi.jp/select/seiji/forum/special/news/20110509org00m010062000c.html

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