2011年5月22日日曜日

スマートフォン時代に花開く KDDIがまいていた種

(日経 2011/5/18)

KDDIが、夏モデルのラインアップを発表。
全12機種のうち、6機種がスマートフォン(高機能携帯電話)が占め、
NTTドコモに続いて、スマートフォンを本格展開。

KDDIの夏モデルのうち、最大の注目はやはり「INFOBAR」。
初代モデルから約8年。
深澤直人氏のデザインで、コンセプトはそのままに、
米グーグルのOS「Android」を搭載したスマートフォンとして見事に復活。

特に感心させられたのが、ユーザーインターフェース。
どの端末を触っても、代わり映えのしないアンドロイドの雰囲気はなく、
全く新しいスマートフォンを操作している感覚に。
画面の動き方も、実に心地よい。
正直「アンドロイドで、ここまでできるのか」と驚いた。

操作の気持ちよさでは、米アップルの「iPhone」がリードしていたように
感じていたが、INFOBARはiPhoneに匹敵する操作性を実現。
一目でわかるデザイン、とことんこだわって作り込まれた操作性など、
INFOBARは男性、女性を問わず、
幅広い層に支持されるスマートフォンになりそう。

これまで、スマートフォンへの乗り換えをためらっていた人だけでなく、
他の携帯電話会社を使う人にも訴える魅力を秘めている。

この夏、携帯電話会社とメーカーがアンドロイドスマートフォンの
ラインアップを強化するにあたり、
顕著になってきたのがメーカーの存在感。

「Xperia」という人気ブランドを作り上げたソニー・エリクソンは、
「Xperia acro」をNTTドコモとKDDIに供給。

シャープは、KDDI向けは「ISxx」などの型番で、
NTTドコモ向けには「LYNX」、ソフトバンクモバイル向けには
「GALAPAGOS」という別のブランド展開、
夏モデルからは「AQUOS PHONE」で統一。

富士通東芝モバイルコミュニケーションズも、
「REGZA Phone」をNTTドコモとKDDIに提供。
メーカーが海外展開していくにあたり、端末ブランドをいかに
構築していくかが重要。

もはや通信会社ごとにブランド名を変えるのはナンセンス。
グローバルを視野に入れたメーカーは、
統一ブランドを前面に押し出す。

◆携帯電話会社が「土管屋」にならないために

スマートフォンによって、メーカーのブランド強化が加速していくと、
通信会社は、国内外のメーカーから端末を調達して売るだけの
「土管屋」になりかねない。

KDDIは、「iida」というブランドを持っていた。
通信会社として、どんなスマートフォンをユーザーに届けていきたいのか?
メーカーの戦略に左右されることなく、通信会社の主張を
具現化する製品ブランドとして、iidaに存在価値が出てきた。

「スーパーやコンビニのプライベートブランドみたいなもの」
(KDDI関係者)といえばわかりやすい。
スーパーやコンビニは系列が違っても、主力となる
ナショナルブランドメーカーの製品はすべて同じ。
缶コーヒーであったり、カップラーメンであったり。

XperiaやAQUOS PHONEは、どの携帯電話会社でも買える
人気商品になりつつある。
スーパーやコンビニでは、プライベートブランドとして
系列店だけにしか置いていない商品も数多くそろえている。
ターゲットユーザーを絞り込んだものや、コストパフォーマンスの
高いものなどで、他の系列店との差異化を図る。

これらを製造しているのは、ナショナルブランドメーカーだが、
プライベートブランドの商品を企画すれば、携帯電話会社として
ユーザーの声を反映し、独自のブランドイメージを構築できる。

iidaは、かつての「au design project」に比べ、
スタート当初からコンセプトがはっきりせず、
新製品を発表するたび、主張がぶれた感じ。
「今回のINFOBARを、iidaを再出発させる契機にしたかった」
(KDDI関係者)という。

この言葉からもわかるように、市場がスマートフォンへシフトしていく中、
iidaは携帯電話会社の考えが明確に伝わる商品ブランドという
位置づけを明確にしていく。
「iida=au design projectの焼き直し」ではない。

他のスマートフォンが、グローバルモデルや国内メーカーによる
マルチキャリア展開モデルが並ぶ中、iidaはKDDIとしての主張を
詰め込んだ商品ブランドに生まれ変わろうとしている。

INFOBARは、マスコミ関係者だけでなく、販売現場からも評価が高い。
KDDIと同じ、CDMA2000方式を使う海外の携帯電話会社で
導入される可能性もゼロではない。

西友のプライベートブランドであった無印良品が独立して、
ひとつのブランドを確立したように、
iidaもKDDIの枠組みを超える存在になれるかもしれない。

◆米フェイスブックとの協調も発表

サービス面での注目は、米フェイスブックとの協力関係構築
田中孝司社長が、自ら渡米しフェイスブックとの提携に合意。
昨年から提供しているソーシャルアドレス帳である
「jibe」をリニューアルし、フェイスブックの使い勝手を向上させる。
日本でも、注目を浴びつつあるフェイスブック。

「日本のネット文化は匿名が主流なので、実名主義である
フェイスブックは普及しないのではないか」という声をよく聞く。

フェイスブックは、不特定多数とコミュニケーションするツールではない。
実社会において交流のある人と、ネット上で円滑にコミュニケーションする
手段といえるもの。
普段から、本名でやりとりする相手だけとつながるための
ソーシャルネットワークという位置づけ。

フェイスブックを身近なものに例えると、何になるのか?
わかりやすいのが、携帯電話の電話帳。
ほとんどが実社会で交流がある人たちで、本名で登録するのが一般的。
アドレス帳を開けば、現在と過去に
自分と交流のあった人たちが並んでいる。

フェイスブックでは、電話帳に載せるのと同じ程度の関係性の人たちが、
それぞれ自分のお気に入りの顔写真を掲載し、
今何をしているのかといった近況をつぶやいたり、
気に入ったウェブ記事や写真を共有したりしている。
メールや電話番号といった連絡先も記載。

フェイスブックは、ケータイの電話帳を置き換えてもおかしくない存在。
スマートフォンによって、ダイレクトメッセージやつぶやきでの
コミュニケーションが増えてくれば、ますますフェイスブックと
電話帳の相性はよくなる。

◆かみ合いだしたKDDIの3つの歯車

昨年末、KDDIはスマートフォン「IS03」に、
ソーシャルアドレス帳のjibeとインターネット電話
「Skype」のアプリケーションを搭載。

jibeとフェイスブック、Skypeが連携することで、
「フェイスブックを見ながら、暇そうな人を見つけたらSkypeで長話をする」、
「jibeで様々なソーシャルサービスを眺めつつ、メールを送ったり
Skypeでチャットしたりする」という使い方が簡単にできるようになる。

今回の協力関係構築は、ここ最近になってフェイスブックが
日本で流行する兆しが見えたため、突発的に始めたものではない。
jibe、Skypeに続くKDDIスマートフォンのコミュニケーションの
中核として位置づけるために準備されたもの。

スマートフォン戦略で大きく出遅れていたKDDIだが、
1年半ほど前からまいていた種が、ようやく花を咲かせようとしている。
発表会では、スマートフォン向けの公衆無線LANスポットを
10万局設置する計画。

KDDIのスマートフォンを取り巻く「端末ラインアップ」、
「コミュニケーションサービス」、「ネットワーク」という3つの歯車
11年夏になって、ようやくかみ合い動き始めた。
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◆石川温(いしかわ・つつむ)

月刊誌「日経Trendy」編集記者、2003年にジャーナリストとして独立。
携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、
一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。
近著、「グーグルvsアップル ケータイ世界大戦」(技術評論社)など。

ツイッターアカウントは、http://twitter.com/iskw226

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