2011年7月24日日曜日

国民に防護ライン示せ 被ばくリスクに向き合う 武田邦彦・中部大教授

(2011年7月14日 共同通信社)

放射線被ばくのリスクとどう向き合うか-?

武田邦彦中部大教授は、福島第1原発事故の発生以来、
子どもを持つ親に向けて、インターネット上で放射線から身を守る
方法についての執筆を続ける。
元旭化成ウラン濃縮研究所長で、事故前は、「安全な原発なら推進」との
立場だった同教授は今、「国の防護政策は甘すぎる」と警鐘を。

-インターネットで情報発信を始めた理由は。

「国は、原発からの距離に応じて住民退避の是非を判断。
重要なファクターは、風の影響のはず。
これはいかんと思い、執筆を始めた。
原子力技術者として事故に責任を感じ、正しい情報を発信して償おうと考えた」

-文部科学省は児童、生徒が浴びる放射線量について、
4月に「年20ミリシーベルトを下回れば、平常通りに活動できる」、
5月末には「年1ミリシーベルト以下を目指す」との目標を示した。
教育現場は混乱している。

国際放射線防護委員会が示す年間被ばく量の上限『年1ミリシーベルト』の
基準を変えてはならない。
放射線で被ばくするという"損失"があるなら、その損失に対して
"利益"が上回る必要がある。
年1ミリシーベルトの場合の発がんリスクが、原子力による電力供給で
国民が得るメリットと相殺されるという考えから、
年1ミリシーベルトが国際的な合意となったのだから、
もし年20ミリに上げるなら、メリットも20倍にならないと駄目。
その議論を十分にしないまま、文科省が年20ミリシーベルトとした罪は大きく、
親が納得できなくて当然」

-幼い子を持つ親たちが、放射線量を自主的に測定し始めた。

「非常に評価すべきだ。
追随する形で自治体が細かな計測を始めたが、本来なら家庭よりも
先に動かなくてはならなかった。
気になるのは、子どもへの放射線の影響を気にする親を、
神経質などと異端視する社会の風潮。
子どものため、産地を気にして食品を購入するのは自然なことであり、
非難してはならない。
給食について不安ならば、学校に食材の産地を明示してもらう」

-食べることで、被災地の生産者を助けようとする動きがあるが。

人助けと、自分の体への影響の問題は、切り離して考えなくてはならない。
生産者の損失は経済的なものだが、消費者が食べることのリスクは健康に響く。
食品の安全性が確認できず、被ばくの恐れがあるならば、当然、注意が必要」

-風評被害を防ぐべきだという声も強い。

「『風評被害』という言葉が、独り歩きしたことが問題。
食べ物からセシウムなどの放射性物質が検出されたんだから、
『風評』ではなく『実害』のはず。
その賠償は消費者ではなく、東京電力に負わせなくてはならない」

-では、安全な食べ物とは何か?
継続して摂取しても、年1ミリシーベルトを超過しない作物ということか?

「そう。食べ物だけでなく、外部被ばくも含めたトータルの値で、
原発事故による被ばくを年1ミリシーベルト以内にとどめないといけない。
国には国民の健康を守る決意を持ち、1ミリシーベルト以下にとどめる
ための日常生活での防護ラインを示してほしい」
   ×   ×

◆たけだ・くにひこ

43年東京都生まれ。専門は資源材料工学。
08年、内閣府原子力委員会専門委員を務める。
著書に「子供を放射能汚染から守りぬく方法」など。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/7/14/139363/

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