2011年7月26日火曜日

携帯電話 発がん性は WHOの組織、可能性指摘

(2011年7月19日 毎日新聞社)

携帯電話から出る電磁波と、がん発症との関係を調べていた
世界保健機関(WHO)の付属組織「国際がん研究機関(IARC)」が、
「電磁波は、人に対して発がん性をもつ可能性がある」との結果。

WHOの組織が、携帯電話に関し発がん性を指摘したのは初。
携帯電話の契約数は世界で50億と推定、
今や多くの人の生活に欠かせない存在。
IARCの結果をどう受け止めたらよいだろうか?

評価結果は、14カ国31人の専門家グループが、
世界各国の研究報告を分析して導き出した。
特に重視されたのが、昨年まとまった世界最大規模の調査
「インターフォン研究」。

同研究は日本や英国、フランスなど13カ国で00~04年に診断された
脳腫瘍患者と、年齢や生活状況がよく似た健康な人のそれぞれ
約5000人について、携帯電話の使用歴を比較。

その結果では、携帯電話の使用が脳腫瘍発症のリスクを上昇させると
示す証拠は得られなかった。
むしろ携帯電話の使用者は、非使用者よりもわずかにリスクは低かった。

脳腫瘍の一つである悪性の「神経膠腫」に限って見ると、
累積通話時間を10段階に分けたうちの最長グループ
(1640時間以上。毎日平均30分、10年間使用)では、
非使用者に比べて発症リスクが1・4倍、40%のリスク上昇を示した。

携帯電磁波と脳腫瘍の関連については否定する研究結果も多いが、
スウェーデンの研究でも、「携帯電話の累積使用が2000時間を超えると、
神経膠腫のリスクが3・2倍に上昇した」との結果。

脳腫瘍のうち、耳にできる「聴神経鞘腫」については、
日本の研究グループの結果で、1日20分以上通話した人に約3倍のリスク上昇。

IARCは、こうした調査や動物実験の結果などを総合的に判断し、
神経膠腫と聴神経鞘腫については、「発がん性の限定的な証拠」があると評価。
白血病など、その他のがんについては「証拠は不十分」。

携帯電磁波の発がん性を、5段階評価で「2B」に分類。
2Bは、人での証拠が限定的で、動物実験での証拠も不十分な場合に適用、
コーヒーと同じ分類に入る。

IARCの幹部は、「長期で頻繁な使用について、さらに研究することが重要」、
「携帯メールや(電話を頭部に接触させない)ハンズフリーキットを
使用するなどの対策が有効」

これらの研究は、聞き取り調査に基づくため、統計上の偏りがある、との指摘。
日本の国立がん研究センターがん予防・検診研究センターの
津金昌一郎・予防研究部長によると、今回の結論に至った主な調査は、
脳腫瘍になった人とならなかった人を対象に、過去にさかのぼって
通話時間を思い出してもらうもの。
この種の調査では、脳腫瘍になった人の方が通話時間を
長く見積もる傾向がある。

脳腫瘍患者の累積通話時間が、最長のグループの210人のうち、
10人は「1日12時間以上」というありそうにない使用状況を報告、
対照になる健康な154人に、こうした例はなかった。

津金さんは、「電磁波が、がんを起こす詳しいメカニズムは分かっていない。
今回のIARCの評価結果は、携帯電話使用に対する予防的な警告の意味も
含まれるのではないか」、現時点ではそれほど恐れるリスクではない。

電磁波などの科学的な情報を提供する「電磁界情報センター」の
大久保千代次所長は、「IARCの評価は、あくまで第1ステップ、
WHOによる健康リスクの総合評価がまとまるには数年かかる。
米国では、06年までの約20年間で、携帯電話の使用者が急増、
脳腫瘍の罹患率は変わっていない。英国やスウェーデンも同じ」

世界各国は、IARCの評価結果公表直後、相次ぎ見解を発表。
ドイツ連邦放射線防護局は、「長期的な影響や子どもへの影響については
可能性を排除できない」、
「念のため、浴びる量を減らすことが適切」と指摘。

スウェーデン放射線安全機関も、通話中は電話機を体から離すことを勧め、
「使用時間が長い人や若者は特に重要」。

日本では、総務省電波環境課が「過去の日本の研究では
影響はないとの結果だったが、IARCの評価結果は真摯に受け止めたい」

インターフォン研究は、30代以上の成人が対象。
子どもへの影響については、国際的な大規模調査が始まっているが、
答えはまだ出ていない。
国立がん研究センターは、「電磁波のエネルギーの脳への影響は、
子どもは成人の2倍以上という報告も。
小中高生の携帯電話の使い過ぎには注意すべきだ」

大久保さんも、「通信状態が悪い場所では、携帯から通常より強い電波が出る。
心配な人は、そうした場所での使用を避けたり、
通話よりメールを使うようにした方がよい」
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◇神経膠腫と聴神経鞘腫

世界や日本での脳腫瘍の発症率は、人口10万人当たり14~20人。
神経膠腫は、神経細胞の周りにあって神経細胞の働きを支えている
グリア細胞(膠細胞ともいう)にできる悪性の腫瘍で、
脳腫瘍の約2~3割を占める。
聴神経鞘腫は、神経を包む膜や鞘の細胞にできる良性の腫瘍で、
脳腫瘍の約1割を占め、40~60代の女性に多い。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/7/19/139538/

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