2011年7月28日木曜日

やる気の秘密(11)大学入学前に復習合宿

(読売 5月27日)

長野県南西部、木曽・御嶽山のふもと。
3月末、山々に残雪がきらめく窓外の景色をよそに、
王滝村の1軒の民宿が熱気にあふれていた。

「y=xをグラフにすると?」。
中学レベルの数学を真剣な表情で問いかけるのは、
愛知工業大学都市環境学科の四俵正俊教授(68)。
参加するのは、いずれもAOや推薦など面接や書類審査で
同学科に合格し、入学間近の高校生18人。

工学の基礎となる数学を、「入学前の不安な時期にこそ学ばせたい」と、
四俵教授が連日10時間学習の4泊5日の合宿を始めて17年に。

東京大学を卒業後、東京工業大学助手を経て、
1974年、現在勤務する愛知工大へ。
教え始めて間もなく、学生の学力に驚かされた。

因数分解や関数がわからないのは、ざら。
桁もそろえず、足し算引き算したりする。
授業についていけず、留年・退学する学生が目立った。

89年、今度は学力試験なしの推薦入試が始まることになり、
危機感はさらに募った。
「いったい、どんな学生が入るのか?」
何とかしなければと悩むうちに思いついたのが、
中学からの数学をやり直す入学前合宿。
「そこまで大学で?」という同僚の異論を無視して、一人で始めた。

合宿では、初日の実力テストでつまずき具合を確認。
その後、講義と練習問題を繰り返す。
気楽に質問できるよう、上級生も指導役として参加する。
愛知県内の高校から進む岡田康甫さん(18)は、
「こんなに勉強したのは初めて」と苦笑し、すぐに表情を引き締めた。
「大学は、遊べる所じゃないとわかった」

大学側も5年前、全員対象の基礎数学の授業を始めたが、
四俵さんは合宿を続けた。
早くに人間関係を培う結果として生まれる安心感のせいか、
参加者は入学後も意欲的に授業に取り組み、
よく質問に来るといった利点が。

その成果は、数字にも表れている。
合宿参加者の7割が留年せずに卒業でき、入学時に学力の高い
一般入試合格者を一貫して上回っている。
合宿で火のついたやる気は、卒業時まで燃え続けるのだ。

基礎のしっかりした学生を組織的に育てるため、
入学前合宿に学科全体で取り組むよう改めて働きかける。

点から線へ。熱いうちに鉄を打つ努力が続く。

◆メモ

1980年代に始まった入試の多様化は、入学希望者数が
全大学の募集定員より少なくなる「全入時代」の到来を控え、
多様な入り口を設けることで、入学者の確保を図る狙い。
従来の学力試験一本から、論文や面接による選考も併用、
学生の能力を多角的に測るようになる一方、
学力低下問題を引き起こした。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20110527-OYT8T00149.htm

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