2008年4月29日火曜日

スポーツと環境~[第4回・最終回] 荻原健司さん 『スポーツもエコも、続けるといいことがある』

(SSF 08.04.08)

―競技をする中で、環境問題を意識したのはどんな時?

スキー競技をする者にとって、スポーツ環境、つまり「雪」はとても重要。
冬に雪が降らなければ、競技ができない。
降ったとしても、良質の雪でなければ記録につながらないので、
気温や雪質の問題にはとても敏感。
90年代後半には、温暖化による雪不足で国際大会が中止や延期に。
ヨーロッパ、北欧の温暖化は深刻で、氷河が後退するという現象も。
トレーニング環境を求めて、年々標高の高い場所を目指す必要。
スキー競技の選手にとってはもちろん死活問題だが、
地球に住む人類全体にとっても大変なことが起こっている。

―雪不足で中止になったスキー(アルペン競技)のW杯大会が06-07年に3回。

W杯を中止にするのは、異例の事態。
テレビ放映権料やスポンサー企業による協賛金によって運営され、
相当な事情がなければ取り止めることはない。
人工降雪機も使えないほど、冬の気温が高かったということ。

―海外でのトレーニングや競技を通じて、影響を受けた環境への取り組みは?

フィンランドなど北欧の国々でトレーニングを積んでいましたが、
国全体を見ても人々の暮らしぶりは、とても「エコ」でした。
よく歩くし、電気などのエネルギーは無駄使いせず、自然に合わせて暮らす。
北欧スタイルと呼ばれるインテリアやデザインに象徴されるように、
自然と調和したスタイルが暮らしに溶け込んでいる。
国民の環境に対する意識が高い。

―普段の活動の中で、環境のために気をつけていることは?

環境先進国といわれている北欧などに比べ、
日本は過剰にエネルギーを使っていると感じる。
夜、街に出ると灯りやネオンの光がまぶしいくらい。
衛星写真で見た夜の日本は、国土の輪郭がわかるほど電気を使用。
フィンランドの生活を経験し、環境を意識した暮らし方が当たり前と思うように。
昼間でも、使わない蛍光灯は消して自然光を取り入れ、暑い時は窓を開ける。

―環境を守るために呼びかけたいことは?

環境問題への危機感をもち、自分にできる「エコ」を探してほしい。
例えば、「カーボンオフセット年賀」という年賀ハガキは、定価は55円で、
5円分が寄付として温室効果ガス削減事業に。
温暖化対策のやり方を考えた時、エアコンを止めてひたすら
暑いのや寒いのを我慢するのも一つの方法だが、
現代の快適な暮らしから何十年も前の暮らしに戻すのは難しい。
自分らしい環境保護への参加方法をぜひ工夫してもらいたい。

募金もいいことだが、方法としては少し創意工夫に欠ける。
生活の中で取り組めること、政治的な仕組み作りにアイデアを出した方がいい。
意識改革も大切。
海外のトップアスリートやセレブリティと呼ばれる人々が、
排気量の多い高級車じゃなく、ハイブリットカーに乗ったりする。
環境を意識した行動が、「かっこいい」と思われるような世の中にしたい。

―議員としての信念「国・政治・社会システムへの“スポーツマンシップ”導入」を、
環境問題にはどう活かすのか?

僕は、ノルディック複合競技というスポーツから多くのことを学んだ。
これからも雪の降る地球であってほしい。
自分でできる省エネ対策やエコをもっと積極的に発信し、
色々な場で発言することを心がけていきたい。

建設や食品など様々な偽装事件が起きて、
社会にスポーツマンシップが欠けている。
世の中全体が消費社会化してきた。
「お金を払っているんだから」と、教育や公共サービスの現場に
消費者意識をむき出しにしたクレーム。
教師が親のクレームに悩まされているという話も。
誰かが見ていなければ、アンフェアなことをしてもいい、
お金さえ出していればいい、という考えではなく、
誰も見ていないところでも、社会の一員として正しくふるまうことが大切。

環境問題に置き換えれば、それは一人ひとりが意識を持つこと。
例えば、誰も見ていなくてもごみは分別する。
もっと積極的に環境によいことをしてみる。
地球の一員として今何ができるかを考え、行動に移すことが大切。

―「R9プロジェクト」では、どんな活動?

R9プロジェクト」は、弟・次晴と二人で何か始めたいと思って発足。
歩くことを通じて、健康やコミュニケーション、身近な環境を見つめ直してほしい。
元スピードスケート選手の勅使川原郁恵さんも加わり、
ウォーキングイベントなども開催。
参加者から、「ゆっくり歩くことで、季節の変化や身近な自然を
意識するようになった」との声も。

身近な自然の変化に気づくことも、環境を考える第一歩。
「歩く」ことに着目したきっかけの一つとして、子どもたちのスポーツ離れ。
地方の学校で統廃合が進み、より遠方の学校へと通わなくてはならない
子どもたちが増え、多くはスクールバスで通っている。
長野県のある小学校では、校舎の700m手前でバスを停め、歩いて通学させる。
バスを使わないことは、CO2削減、体力づくりにもなって一石二鳥。
通学時間を共有することで、バスより長い時間のコミュニケーションが生まれる。
通学を、ウォーキングというスポーツと考えると、さまざまな可能性が広がる。

―スポーツ愛好者へ向けてのエコメッセージ。

「スポーツもエコも、続けるといいことがある」。
スイスのあるサッカー競技場は、屋根がすべて太陽光発電のソーラーパネル。
スポーツをする者が、必要なエネルギーは自分で賄うという考え方。
スタジアムで開催するスポーツイベントには、莫大な電力がかかる。
資源を消費するだけがスポーツではない。
人々が夢中になるだけの魅力があり、意志と仕組みがあれば
環境問題の改善に大きく貢献することができる。
ソーラーパネルの競技場は、その一つの道筋を示している。

スポーツを通じて、エネルギー問題や環境問題に一石を投じることができる、
ということを、スポーツを愛する人には忘れないでほしい。
スポーツにできるエコを、もっと世の中に広めるために、
僕は声をあげ続けていきたい。

http://www.sfen.jp/opinion/athlete/04.html

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