2008年5月2日金曜日

クローズアップ2008:穀物急騰、途上国を直撃

(毎日新聞 2008年4月19日)

コメや小麦など、穀物価格の急騰が途上国に深刻な打撃。
主食を輸入に頼る国々では暴動が相次ぎ、中米の最貧国ハイチでは
政府崩壊の危機を招いている。
輸出国側では、自国消費分確保のため輸出禁止の動きも広がり、
「食糧ナショナリズム」の様相も呈する。

背景には、新興国の需要拡大のほか、低所得者向け高金利住宅ローン
(サブプライムローン)問題で投機資金が穀物市場へ流れたこと。
7月の北海道洞爺湖サミットでも主要議題に。

「空腹が耐えられない」「大統領、辞めろ」--。
今月8日、ハイチの首都ポルトープランス
食糧価格高騰に抗議し、大統領府へ突入しようとする市民を、
駐留する国連平和維持軍が催涙弾で阻止する。

国民の8割が1日2ドル以下で暮らす最貧国では、
コメなどの値段が昨年の1・5~2倍。
責任を問われたアレクシス首相の解任が上院で決議された12日、
プレバル大統領はコメ50ポンド(約23キロ)を51ドルから43ドルに引き下げ。
だが、豆や牛乳も値上がりし、市民の不満は強い。
略奪への発砲などで、死者は今月に入り5人。

南米ベネズエラのチャベス大統領は、
ハイチへ肉や穀物計364トンの緊急支援を決めた。
「ブッシュ(米大統領)が、バイオエタノール増産を表明後、
貧しい人々の餓死が深刻になった」と、
食糧価格高騰の責任は米国にあると非難。

国民の2割が貧困層のエジプト。
公営のパン屋が、1枚5ピアストル(約90銭)の安価なパンを販売。
だが、パンの大きさは3年前の約半分。
民間のパン屋の値段は、公営店の5倍以上。
パンの売買が原因のけんかなど、先月以降、十数人が死亡。

穀物に加え、燃料高騰が重なるアフリカでも暴動が相次ぐ。
カメルーンでは2月、物価高騰を一因とする暴動で約40人が死亡。
3月のコメ価格が、1年前の2倍に上がったコートジボワールや
モーリタニアでも暴徒と警察の衝突で死者が出た。
世界第4位のコメ生産国バングラデシュも、
1万5000人以上の工場労働者が賃上げを求めてストに突入。

◇広がる「自国分確保」

国連食糧農業機関(FAO)は、最貧国の07~08年の穀物輸入代金が
前期比56%増加すると予測。
国際通貨基金(IMF)のストロスカーン専務理事は
「このまま高騰が続けば、戦争の危険を含めたひどい結果に直面」。

潘基文(バンギムン)国連事務総長は、「食糧サミット」を6月に開く方向。
事態を重くみた先進国も動き出した。
サルコジ仏大統領は、「直ちに食糧安全保障を強化しなくてはならない」、
今年度の緊急食糧援助に、昨年度比2倍の6000万ユーロ(約98億円)を計上。
米政府も、すでに最貧国に2億ドルの拠出。

食糧価格高騰が途上国を直撃するのは、
「先進国では、食費が家庭の支出に占める割合は1~2割、
途上国では6~8割にも達する」(FAO)。
途上国で教育費など「未来への投資」のカットに直結し、
長期的な悪影響を与える。

世界有数の小麦生産国カザフスタンは、自国での物価上昇に対応、
9月まで小麦の輸出禁止を決定。
ベトナムは、コメの輸出禁止措置を6月まで延長。

世界食糧計画(WFP)によると、援助用の食糧価格が約1年で5割上昇。
確保が困難に。
欧州委員会のマンデルソン委員は、
「世界が食糧安全保障の幻を追うなら、
保護貿易主義の連鎖を引き起こしかねない」と生産国を批判。

◇新興国での需要増/バイオ燃料ブーム/サブプライム危機

「食糧インフレの時代が来た」--。
シカゴ商品取引所(CBOT)の動きに詳しい米エコノミスト、ビル・ラップ氏は、
穀物価格の急騰を表現。
中国やインドなど、経済成長著しい新興国の食糧需要増が主な背景。

昨年1月、ブッシュ米大統領が一般教書演説の中で
バイオエタノール増産計画を打ち出すと、
直後からシカゴ市場のトウモロコシ価格が急騰、1年前の2倍の値。
昨夏、サブプライムローンの焦げ付きが世界的な金融危機に発展。
欧米金融市場で、住宅ローン関連の証券化商品に投資してきた
世界中の投機資金が、一斉に金融市場を離れた。

行き場を失った資金は、投資先を求めてさまよい、
値下がりしにくい市場、確実に需要を見込める市場に流れ込んだ。
一つがエネルギー市場で、もう一つが穀物市場。

原油は、新興国の需要増が価格を支えた。
穀物は、バイオ燃料ブームで、既に上昇基調に入っていた。
目をつけた投機資金が、穀物市場に流れ込んだ形で、
シカゴ市場では今年に入ってからも連日のように小麦やトウモロコシの
取引価格が史上最高値を更新。

◇サブプライムよりアジアへの影響大

アジア開発銀行(ADB、本部・マニラ首都圏)の黒田東彦総裁は、
「コメなど食糧価格の世界的高騰がアジア経済に与える影響は、
サブプライムローン問題より大きい」。

黒田総裁は価格高騰の要因について、
▽発展途上国での、穀類を多く消費する肉の需要の増加
▽オーストラリアの干ばつによる生産の減少--など。

総裁は、「かんがい設備や農道など生産増加につながる
インフラ整備の支援を強化したい」、
来月スペインで開かれるADBの年次総会でも主要テーマに。

http://mainichi.jp/select/world/archive/news/2008/04/19/20080419ddm003030091000c.html

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