2008年5月1日木曜日

特集:シンポジウム「小坂流『逆ビジョン』への挑戦」 小さな地方から世界に発信

(毎日新聞 2008年3月23日)

自然や産業など地域特有の資産を生かした地域再生モデルを
世界に向けて発信するシンポジウム「小坂流『逆ビジョン』への挑戦」が、
秋田県小坂町にある「康楽館」で開かれた。
経済産業省の地域活性化事業の一環で、
同省文化情報関連産業課の前田泰宏課長が
「これまでの情報発信は、主に都市から地方に向かっていたが、
小さな地方から日本、世界に発信するのが『逆ビジョン』。
人、国、地球のことを考え発信しよう」。

パネルディスカッション「いぐ頑張ってるすなぁ・小坂」は、
参加者全員にピンクと水色の手袋が配られ、クイズ形式。
「小坂町の木は、(1)アカシア、(2)ベニヤマザクラ?」、
「携帯電話1万台から回収される金の量は100グラムより(1)多い(2)少ない?」
などが出題され、会場は笑いに包まれた。
   ◇  ◇
前田 97年に小坂町で世界鉱山サミットが開かれ、
川口博町長が「小坂宣言」を発表
その中に、「私たちも自然界の生命体として」とある。

川口 資源がなくなると、地域がゴーストタウンになる事例が
世界中にあったが、鉱石がなくなっても再生した街はある。
サミットでまとめたものが「小坂宣言」。
命あるものを大切にしたいという願いを込めた。

前田 鉱山の町として栄えた小坂町は、製錬で排出される
亜硫酸ガスの影響で環境を破壊した。
だが、製錬技術を活用したリサイクル事業を推進する「エコタウン事業」や、
はげ山になってしまった土地に木を植えて環境を再生させる事業など、
先進的な取り組みで地域を再生。

安田 堆積物でできる「年縞」が、イースター島(チリ)で
1200年に突然なくなったのは、ヤシの森を破壊したため。
秋田県は、自然と共生してきたから年縞が残っている。

宮脇 小坂町の木・ベニヤマザクラは、土地本来の植物。
本物の苗を植えれば、何百年も生きる。
木を植えることは、命と明日を植えること。そして、心に木を植えること。

◇30年前の環境、実現へ-国際日本文化研究センター・安田喜憲教授

地球環境問題を考えるとき、自然と人の共存があった30年前に帰ればいい。
100年以上前の江戸時代は共存のパラダイスだったが、30年で十分。
そのころの環境を実現する路線を作ることが、「逆ビジョン」。

環境改善の具体例として、兵庫県豊岡市が成功させたコウノトリの野生復活
30年前、コウノトリが「ばーっ」と舞う風景がどこにもあった。
同市は、ドジョウなどを生育させるため、農作物を無農薬で生産。
復活には、経済効果もあった。
コウノトリ見学のバスツアーで観光客が増え、無農薬米は通常の4倍の価格、
1丁1000円の豆腐も大ヒット。
コウノトリ野生復活に象徴されるように、
生き物の命を大切にするのが日本人の生き方。

秋田県に伝わる民俗行事「なまはげ」も、日本人の伝統的な心を伝えている。
子供は「なまはげ」が怖くて逃げ回り、人に迷惑をかけず、
まじめに正しく生きることをたたき込まれている。
だから、秋田県の人は優しくて品格が高い。

天皇陛下が、田植えと収穫をされるのはなぜか。
自らのエネルギーを投入して不毛の大地を美しく変えることが、
最高の喜びであることを示されている。
稲作での水の循環は、日本人の「慈悲の心」につながる。
自分の田んぼに入ってきた水は、きれいなまま隣につなぐ必要。
他人の幸せも考えなければ成り立たない。

秋田県には、「美と慈悲の文明」がある。
この世界観を、自信を持って広めてほしい。

◇命守る「森」広げたい-横浜国立大・宮脇昭名誉教授

30数億年前に地球で生命が誕生し、絶えることなく続いてきた。
私たちは、かけがえのない命を明日に残さなければいけない。
地球上では、鉄や石油化学製品など“(生物が)死んだ材料”による
街づくりや産業が発展。
だが、命を支える環境に対して現在の科学技術や医学は、まだ不十分。

命を支えるのは「ほんものの森」で、
人に残されたのは偽者を見分ける能力だけ。
日本人が作った鎮守の森は英知の結集で、
命を守る文化の基盤のシンボル

生きていくためには資源を使う。
食べるものはもちろん、身に着ける服も石油も植物が原料のため、
地球に生きる限り森が必要。

森は、芝生の30倍も緑が濃縮されているため、環境改善にも効果的。
温室効果ガス排出量の売り買いなど、小手先の対策だけではだめ。
古代文明のローマやメソポタミアは、常緑硬葉樹林をつぶして
都市や文明を作ったが、現代の文明先進国のエリアは
より北にある落葉広葉樹林帯に移った。
鉄と石油とセメントの中で、人間がいつまで生きていけるか考えてほしい。

ただ、共生は仲良しクラブではない。
少々苦手な相手がいても我慢し、競争しながら生きるのがいい。
厳しい環境で生きる植物が本物で、工場や都市とも共生できる。
阪神大震災では、最高の技術で作った鉄、コンクリートの建造物が壊れた。
だが、広葉樹を主とした森の木は倒れることなく、
さらに炎が広がることも食い止めた。
命を守る「ほんものの木」を植えよう。

◇循環型社会の構築を-川口博町長「第2次小坂宣言」

川口博町長はシンポジウムの中で、
循環型社会の構築などが柱の「第2次小坂宣言」を発表。
97年の鉱業技術の向上や地域振興を柱とした「小坂宣言」に続くもの。
川口町長は、「小坂宣言から10年がたった今、あらためて意義を再考して
広く世界に発信する」、

(1)「地球に優しい循環型社会」構築のための技術発展を推進、
(2)「生命力強化」を求めてワークライフバランス(仕事と生活の調和)の
健全化を推進する、
(3)地域が輝くことにより、日本そして世界が輝く、
3つの目標を実現するため、産学官が一体となって取り組むことを宣言。

◇パネリスト
国際日本文化研究センター教授・安田喜憲氏
横浜国立大名誉教授・宮脇昭氏
秋田県小坂町長・川口博氏
◇モデレーター
経産省文化情報関連産業課長・前田泰宏氏
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◇都市鉱山、「製錬」で再生-DOWAホールディングス・吉川広和代表取締役会長

鉱石から金属を分離する技術を利用したリサイクル事業は、
カナダ、ベルギーと並び世界で3カ所にしかない高度な技術。
明治から昭和にかけ、鉱業全盛の時代だったが、
小坂町にある「小坂製錬」の歴史は順風満帆ではなかった。
85年のプラザ合意で、円高が進んで鉱山の価値が下落し、
鉱石を残したまま閉山を余儀なくされた。

「地下資源から地上資源へ」。
その後の新事業の柱となった環境リサイクルは、
貴重な金属が多く使われているテレビなどの家電、自動車、パソコン、
携帯電話などが原材料。
これらを鉱石代わりにして製錬設備を使うと、地下資源より価値が高く、
まとめて「都市鉱山」と呼んだ。

資源は特定の国に偏在しているが、都市鉱山は日本にたくさんある。
海外も含め、集め方を工夫すれば宝の山。
06年ケニアのナイロビで開かれた有害廃棄物の越境移動を禁じる
バーゼル条約会議で、「使用済みの家電機器を買い取る」と発表、
タイ、シンガポール、マレーシアの3カ国から
使用済み携帯電話の回収試験を行った。
今後は、中国なども視野にいれた回収計画を進めていく。

今後の取り組みのポイントは、新型炉を成功させること。
電子基板などから銅を中心に、19種類の金属を回収できる
世界でもまれな製錬所。
リサイクル技術で世界をリードする小坂町になりたい。

◇北京の清華大で来月26日に講演

吉川広和氏は4月26日、中国・北京市にある清華大で講演。
住友商事と中国住友商事会社が同大で行っている共同研究講座の一つ、
「企業改革とリーダーシップについて」をテーマに講演。
住商と中国住商は、日中双方から学識経験者や財界人などを講師として
定期的に派遣しており、講座は今回で4回目。
吉川氏は、DOWAホールディングスのトップとして同社の経常利益を
7年で10倍にするなど、経営手腕を評価。
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◇「アカシア太鼓」、15人が豪快演奏

シンポジウムには、女性だけの太鼓グループ「アカシア太鼓」が出演。
地元の小中学生と高校生、町民ら計15人が
「楽しく打とう『夢』」、「清流」などを演奏。
日ごろ鍛えた豪快な動きでイベントに花を添えた。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080323ddm010040147000c.html

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