2008年4月29日火曜日

農学系ポスドクへの期待と現実

(サイエンスポータル 2008年4月10日)

日本学術会議の生産農学委員会農学教育分科会が、
社会の期待にこたえる農学教育の在り方について報告。

地球規模の問題解決に対する期待が大きくなっているのに対応し、
農学教育も分野横断型の教育体制に再構築する必要がある、と提言。
農学系の博士課程修了者の置かれた厳しい現実などから、
提言を実現することは相当、難しい。

農学系の大学院修士課程から博士課程に進学する人の割合は約20%で、
全大学の博士課程進学率(13.2%)に比べて高い。
専門志向が平均より高い。

博士課程修了者の身の振り方はどうか。
文部科学省「平成18年度学校基本調査報告書」によると、
博士課程修了者1,056人のうち、就職できたのは51.6%(550人)、
修了時に就職先が決まっていない人が37.4%(395人)。

別の調査(科学技術政策研究所)によると、
平成17年度の「ポストドクター等」は15,496人、
このうち農学系は1,618人と10.4%を占める。

「ポストドクター等」とは、「博士の学位を取得後、
(1)大学等の研究機関で研究業務に従事しているが、
教授・助教授・助手等の職にない人、
(2)独立行政法人等の研究機関において研究業務に従事しているが、
任期付きで、所属する研究グループのリーダー・主任研究員等でない人」
研究活動に従事しているものの、身分が不安定な博士課程修了者。
「ポストドクター等」を雇用しているのは、大学と独立行政法人が96.4%、
民間企業はわずか0.2%。

「平成18年度学校基本調査報告書」で就職できた農学系の
博士課程修了者とされている550人のうち8割以上は、
大学教員(19.0%)と科学研究職(62.2%)で占められている。
農学系博士課程修了者は、理学系、工学系などと同様、
それ以上に専門志向が強い。

「大学院はこれまで、博士論文の内容を国際基準に合わせるために、
各分野の国際専門学術誌での発表を半ば義務化してきた。
わが国の社会が問題としている具体的な研究課題は等閑視され、
…大学教員用の人材養成に偏りすぎ、企業、団体や行政機関等が
求める博士の資質や能力になじまず、
社会的な活動の範囲を狭くする結果に」

日本学術会議・生産農学委員会農学教育分科会報告に
盛り込まれた指摘とともに、
「農学系の博士に求められる能力は、専門分野の研究推進能力だけでなく、
地球規模での困難な課題を解決するための新たな学術を
創造的に構築する科学力であり、
新たな職業や産業の開発・展開に参加する実力」。

報告は、「博士のための労働市場を確保、拡大するために、
産業界、官界と大学院が連携して具体的な検討を始めるべき」と、
いくつかの具体的な提言。
大学院側が速やかな意識改革と体制の見直しができるかどうか、問われる。

http://www.scienceportal.jp/news/review/0804/0804101.html

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