2008年5月3日土曜日

遺伝子と遺伝子を区切る「壁」の実態がみえてきた!

(nature Asia-Pacific)

東京工業大学大学院生命理工学研究科 白髭克彦教授

ヒトの遺伝子は、約2万個あると推定。
正常な発生と成長は、これらの遺伝子が、独立性を保ちつつ、
必要に応じて協調することで可能。

状況に応じて、さまざまな遺伝子のオンとオフのスイッチが切り替わるが、
その際に遺伝子どうしが干渉しあうのを防ぐしくみが必要。

しくみの一つとして、「インシュレーター(区切り壁)」とよばれる
構造の存在が想定されていたが、その実態は謎。

東京工業大学の白髭克彦教授は、インシュレーターの構築に
コヒーシンとよばれるタンパク質が重要であることを突き止めた。

インシュレーターは、遺伝子の情報をmRNAに転写する際に
「どこからどこまでの配列を写しとるか」を決める役割。
インシュレーターの機能によって、遺伝子の発現領域が明確に定められ、
不要な領域が発現しないように制御。

コヒーシンは、細胞分裂の際に娘細胞にゲノムを正しく分配するために
はたらくタンパク質として知られる。
酵母からヒトにまで広く保存されたタンパク質で、
コヒーシンをまったくもたない個体は生存することができない。

「私たちは、インシュレーターの解明を目指していたわけではなく、
コヒーシンの機能の解析を進めていたところ、
偶然にもインシュレーターにたどり着いた」。

リング状の構造をもつコヒーシンは、リングの穴のなかに
DNAが通るようなかたちで染色体を束ねていると考えられ、
白髭教授は、ヒトでのコヒーシンタンパクの構造と機能を調べる過程で、
インシュレーターとしての機能を果たすことを突き止めた。

白髭教授は、出芽酵母で、ある遺伝子の転写がはじまると、
コヒーシンはその転写領域を避けるように移動すること、
細胞が分化したり熱処理を受けたりすると、コヒーシンがDNAの結合部位を
変えることなどを突き止めていた。

今回は、ヒーラ細胞やリンパ球、繊維芽細胞などを用いて、
コヒーシンがどのようなふるまいをみせるかを調べた。
解析には、自らが開発したヒトゲノム用の「チップ-チップ法」を用いた。

チップ-チップ法は、マイクロアレイ上で出芽酵母などのタンパク質が
ゲノムのどこに結合するかを調べる手法だが、
これまで、ゲノムサイズが大きく構造が複雑なヒトゲノムには使えなかった。

白髭教授は、東京大学の油谷教授とともに、
微量のDNAを偏りなく増幅可能な方法論を開発し、
ヒトゲノム上でもタンパク質の結合部位を90ナノメートルという
高解像度でとらえる手法を実現。

その結果、ヒトでは、コヒーシンがインシュレーターの構成要素とされる
CTCFというタンパク質と同じ場所に存在していることがわかった。
「コヒーシンの結合する場所はCTCFに依存しており、
コヒーシンを欠損すると、CTCFを欠損した場合と同じ影響がみられた」。

CTCFは、「遺伝子発現の刷り込み」にも関わり、
コヒーシンにも同様の機能がみられることを明らかにした。
コヒーシンが、細胞の状況に応じてDNAの結合部位を変え、
遺伝子の発現を調節していると断定できた。
コヒーシンは、インシュレーターの構成要素としてもはたらいており、
その機能はCTCFよりも重要らしい」。

白髭教授は、ヒトゲノム上の計1万3000箇所にコヒーシンによる
インシュレーターが作られることを確認、
それぞれがどのような塩基配列からなっているのかを調べている。

今回の成果の応用として、「遺伝子治療の際に、目的の遺伝子だけを
安定して発現させるため、インシュレーター配列を付加することが不可欠」、
「ヒトで実用に堪えうるインシュレーター配列はまだないので、
今回発見した候補配列を一つずつ精査して行く必要がある」。

インシュレーターのなかには、コヒーシンを含まないものがあるかもしれず、
実態の解明にはまだ時間が必要。
「インシュレーターにかかわらず、染色体の上でおきるあらゆる現象を
詳細に調べ上げたい」。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=91

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