2008年5月4日日曜日

MyMaiTree:あすを植えよう(その2止) ドイツに学ぶ「共生」

(毎日新聞 2006年11月18日)

ドイツの森の現状を通して、自然保護の哲学にふれる
「宮脇昭先生と行く『ドイツ1000年の森と街』」と題した視察ツアー。
青森県から長崎県まで全国から29人が参加。

ドイツは、宮脇昭・横浜国大名誉教授が若き日に留学した国で、
研究者としての原点の地。
森林の保護・育成や豊かな都市林、街づくりのあり方など、
日本が学ぶべき取り組みも多い。
「森とともに生きる」ドイツの横顔を報告。

宮脇先生が提唱する「ふるさとの木によるふるさとの森づくり」理論は、
1958年から2年間、旧西ドイツの国立植生図研究所の所長、
ラインホルト・チュクセン教授のもとで学んだ「潜在自然植生理論」を応用
チュクセン教授の孫弟子、ハノーバー大学植生学の
リチャード・ポット主任教授(副学長)が全行程の案内役。

ドイツの森林面積比率は約3割、日本は約7割。
面積も、ドイツは日本の2・5分の1しかないが、
ドイツの森の豊かさを随所で実感。

ドイツ国内を縦横に走る高速道路・アウトバーンの両側には、
ヨーロッパミズナラなどが植えられ、森を作る。
中央分離帯にも、木が植えられている。

◆赤紫色の平原

ドイツ最古の自然保護地域のリューネブルガー・ハイデ。
美しい赤紫色の花を付けるエリカ(ヒース)の大平原に、
夏のシーズンには多くの観光客が訪れる。
1909年に国の保護地域となり、車の乗り入れ規制など。

かつてはヨーロッパミズナラ、ヨーロッパカンバなど豊かな森。
家畜の放牧や伐採、岩塩採掘で、やせた土地となり、
エリカしか生えない荒れ野に。

1880年ごろ、営林署が森林の再生計画を作り、
約20年で植林をして復元。
徹底した土壌調査をし、土地にふさわしい樹種を選んで、計画的に植樹。
チュクセン教授が大きく貢献。弟子の宮脇先生も、土壌調査に同行。

1万5000ヘクタールの森林は、森林再生の手本として
現在もロシア、中国など各国から視察に訪れる。
エリカの土地も、7000ヘクタールが残された。
「その荒れ地が、今は自然保護地域となっている。
パラドックス(逆説)ですね」と宮脇先生。

ニーダーザクセン州立営林署のライナ・コプセル署長(57)は、
「エリカは管理しないと、他の草や木が生えてきて森になってしまう」。

◆「自然林」の姿

氷河が解けて出来たドイツ北部オストフリースラント地方にあるハスブラッハ
ドイツ国内でも3カ所しかない原生林に近い森を散策。
高木、亜高木、中木、低木と自然林のあり方を示している。
州政府の自然保護地域で、厳しい法律により規制。
倒れた老大木もそのまま、朽ちて森の養分に。
樹齢1200年というヨーロッパミズナラの木も、悠久の時を感じさせた。
「いつまでも歩きたい感じね」。参加者の声がした。

◆緑あふれる人造湖

ハノーバー市は人口50万人を超え、「緑のなかの大都市」。
どこに行っても森がある。
650ヘクタールもある「市民の森」の林道は、
ジョギングやサイクリングを楽しむ人たちであふれていた。
乗馬道、ビアガーデン、レストランなどもあり、生活と一体となった都市林。
ポット教授は、「この森は、人間が作った最も自然な森」。
市の中心部にある大きな人造湖にはヨットが浮かび、
緑あふれる湖畔では市民が散策を楽しんでいた。

◆「黒い森」観光と農業

シュバルツバルト(黒い森)。
もともとヨーロッパブナとヨーロッパモミの混交林だが、乱伐で失われ、
ヨーロッパトウヒを中心に大規模に植樹された針葉樹が、
黒く見えることからこう呼ばれる。
南北約170キロ、東西20~60キロ。
70年代後半に、酸性雨の影響を受けた象徴的な場所。

森林地帯となだらかな丘陵が交互に現れる南部。
山間には、しゃれた休暇村が点在。
人々は、観光と農業で生きている。
ポット教授は、「休暇村には、1週間か週末に3日間が基本。1泊はいない」。
道路脇を、牛飼いの少女が牛を連れて歩く姿も。

◇一生物として暮らす/気質と哲学感じた

ツアーに参加した皆さんに、ドイツの森と街について感想。

▽岐阜県美濃加茂市、渡辺俊幸さん(74)
自然を生かすのに手をかけず、自然と共生するためにはどうすればよいか
常に考える習慣が染み渡っている

▽東京都八王子市、木崎忠重さん(70)
街の様子を見ると、全域が多様な生物を維持する巨大なビオトープとなり、
人はその生物の一つとして暮らしているように見えた

▽長崎市、山部倫照さん(21)
都市のど真ん中に森があることに驚かされた。
都市林というよりも、自然の森のなかで生きているように感じた

▽盛岡市、立花民子さん(60)
古い建物を再現しつつ現代化して、しかも自然を残す。
自らの歴史に誇りを失わなかったドイツ人気質、哲学の違いに感じ入った。

◇全体的な対応必要--宮脇昭・横浜国大名誉教授の話

ドイツでは、70年代から生態学者たちが、
その土地本来の広葉樹、潜在自然植生の主木である
ヨーロッパブナ、ヨーロッパミズナラなどの保全・再生を訴える。
政府、行政も酸性雨や害虫に弱く、経済的にもなりたたないと、
植樹を針葉樹から広葉樹に方針転換。
本気になって取り組めば、たとえ狭い土地でも
アーバンフォレスト(都市林)やアウトバーンの森のような立派な森が作れる。
ドイツには、個々の問題への対応ではなく、全体を考える哲学がある。
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◇主な行程
9月8日(金) 全日空機で成田発、フランクフルト着。
ルフトハンザ機でブレーメンへ
9日(土) オストフリースラント地方の自然林を見学。
オルデンブルクの「人と自然」博物館見学
10日(日) リューネブルクで森とエリカ、ハノーバーで市民の森、湖など見学
11日(月) 中世の美しい町・ブッツバッハ、古都・ハイデルベルク訪問
12日(火) シュバルツバルト(黒い森)の南側の玄関都市・フライブルクを散策
13日(水) シュバルツバルトの北側の森を見学、フランクフルトへ
14日(木) 全日空機でフランクフルト発、成田着

http://mainichi.jp/life/ecology/archive/news/2006/11/20061118ddm010040031000c.html

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