2008年5月17日土曜日

理系白書’08:第1部 イノベーションを考える/2 既存技術×新発想…

(毎日 5月11日)

イノベーションを起こすのに、新規の技術開発は必要条件とは限らない。
既存技術の組み合わせでも、新しい発想があれば可能。
富士フイルムが、86年に世界で初めて売り出したレンズ付きフィルム
「写ルンです」がよい例。

「写ルンです」は、絞りやシャッター速度、焦点が固定してあり、
シャッターを押すだけで簡単に写真が撮れる。
1000円台の価格と手軽さが受け、累計15億個を売り上げる大ヒット商品。
デジタルカメラやカメラ付き携帯電話の普及した今でも、年7000万個が売れる。
新しい発想は、「フィルムに最低限必要な部品を取り付ける」。

開発開始は、同社の創立50周年だった84年。
主力のカラーフィルムの売り上げが頭打ちという背景。
発案した持田光義氏は写真工学科卒で、フィルム部門が長い。
持田氏の下に部署を超えて人材が集められ、商品開発、生産管理や
販売戦略の検討が素早く進められた。

社内に不安がなかったわけではない。
カメラの設計部署にいた亀山信行・富士フイルムデザインセンター長は
「正直言って、これで売れたらカメラの立つ瀬がないと、
発売当初は思っていた」と振り返る。

使われた技術は、単焦点のプラスチックレンズ、蹴飛ばし式と呼ばれる
簡単なシャッター、単純なフィルム巻き上げ方式など。どれも同社の既存技術。
「あくまでフィルム」という考え方は、販売戦略にまで徹底。
フィルムと同じデザインのパッケージで、
フィルムと同じように店頭に並べられた。

爆発的に売れ、「一家に一台」というカメラの概念を打ち破った。
「カメラの設計屋は、カメラの部品の中からどれを省けるかと考えるから、
1000円台のカメラなど考えも及ばない。
フィルムの専門家だからできた」と亀山さん。

92年から「写ルンです」のチームに加わり、夜間撮影などの新機能を
開発したり、リサイクル製造を実現させるなど、後発他社との競争をリード。

独創的な新商品開発の経緯を調べた
文部科学省科学技術政策研究所の石井正道客員研究員は、
「技術者が、自分の専門と専門外の知識を融合させて生み出している。
自発的に他分野に飛び込んで学習する能力のある人材と、
長期間自由に試行錯誤が行える環境をそろえることで、
画期的なイノベーションが生まれる確率を増やすことができる」。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2008/05/11/20080511ddm016010143000c.html

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