(毎日 10月19日)
国際航路を航行する船舶から排出される二酸化炭素(CO)が
急増し、その削減が急務に。
海流予報の活用や再生可能エネルギーの導入など、
燃料費の節約も狙う一石二鳥の対策に、海運業界や研究機関が取り組む。
決め手は、空気の800倍という水中の摩擦抵抗をいかに減らすか、という点。
日本郵船は、工場のプラントなどを運ぶ総トン数1万4600トンの
重量物運搬船に、商船では世界初となる船底に、「空気」を送り込む装置を搭載。
10年に完成予定。
「空気で船底にバブル(気泡)を発生させ、海水との摩擦抵抗を減らし、燃料を節約」。
同社の田中康夫技術グループ長は、“新兵器”の効果を説明。
送り込まれた空気は、気泡となり浮力を生じ、船底の壁に張り付く。
船底が気泡で覆われると、気泡は水より摩擦抵抗が少なく、
航行中の船への抵抗も減る。
大型船は、船底の面積が大きいため、
船底に多くの気泡が張り付くことになり、効果が大きい。
「気泡効果」は、80年代から研究されている。
国内でも、海上技術安全研究所が01年から練習船で実証試験を続けていた。
直径0・5~1ミリの微小な「マイクロバブル」を用いていたが、
その後、「マイクロ」でなくても、もっと大きい普通の「バブル」でも十分、
摩擦抵抗が減って効果があることが分かってきた。
日本郵船によると、この手法で航行中の摩擦抵抗は約20%減る。
しかし、空気を送り込むためにエネルギーを使うため、
差し引きで10%の省エネ。
効果が出るのは、船底のみ。
水と接する船体の側面では、気泡が海面に浮かんでしまい張り付かない。
海面の下になる部分が深い船では、空気の送り込みに使うエネルギーも大きく、
現在は一部の船でしか省エネ効果は生まれない。
「将来的には、多くの船に搭載してCO2を減らしたい」
◇30年で効率2倍に
池田良穂・大阪府立大大学院教授(船舶工学)によると、
航行中の船体に働く抵抗は、水の摩擦抵抗が大部分を占める。
船を進めるはずのエネルギーが波を造ることに費やされてしまう「造波抵抗」、
船舶の背後に渦ができることで、抵抗が増す「粘性圧力抵抗」がある。
造波抵抗は、高速になると急激に増加し、高速化を妨げるやっかいなもの。
これを減らすには、波を可能な限り立てなければいい。
そのため、早くから取り入れられてきたのが、船首の船底部分に
丸く突き出た形のバルバスバウ(球状船首)。
バルバスバウが作り出す波が、それ以外の船首による波と干渉し合い、
結果的に船全体が造る波を抑える仕組みに。
池田教授によると、バルバスバウの研究は日本がリードしてきており、
古くは1941年に完成した戦艦大和に装備され、約8%の省エネ効果。
省エネ研究の積み重ねにより、過去30年間で日本の
船舶のエネルギー効率は約2倍に向上。
池田教授は、「できるだけ抵抗を減らすように、船の形状を
総合的に見直すなどの努力を続ければ、あと20~30%は効率を改善できる」
◇海流予測も駆使
海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者らが、研究成果の社会還元を目的に
設立した「海流予測情報利用有限責任事業組合」は、
従来よりも大幅に精度を上げた海流の予測情報を提供。
約18キロ四方ごとの海流の変化を、スーパーコンピューターで予報。
海運会社が提供された情報を活用し、黒潮など流れが強い海流に
うまく乗ることができれば、航行の時間短縮や燃料節約を狙える。
日本郵船が、「波乗り効果」を黒潮海域で検証したところ、
従来より最大で約9%のCO2削減に。
新日本石油は同社と共同で、船舶に搭載する太陽光発電システムを開発、
船内の照明やエンジン制御などに用いる方針。
水素を用いる燃料電池の活用も検討。
日本の海洋技術安全研究所などの国際研究チームは、
07年に船舶から排出された温室効果ガスが、
CO2換算で約8億4300万トンに上ると試算。
世界全体のCO2排出量の約3%に相当、
20年までに10~30%増加すると予想。
京都議定書後の13年以降の国際的な温暖化対策では、
船舶のCO2削減も重要な課題になりそう。
◇10%減速で燃料3割節約
船の燃料は、主に重油。
照明、空調など船内の電力供給用発電機も重油を使うことが多い。
運航に伴う重油の燃焼で、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)のほか、
温室効果ガスのCO2も排出。
船舶におけるCO2削減は、燃費の改善が一般的。
船体やプロペラに付着する海藻や貝殻などを取り除き、摩擦抵抗を減らす、
▽速度を遅くする(速度10%減で燃料3割減)、
▽風向、風力、波浪のモニタリングデータを活用し、速度を一定にする、
▽プロペラやエンジンの改良、
▽燃料に添加剤を投入して燃焼効率を上げる--などの手法。
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2008/10/19/20081019ddm016040026000c.html
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