2008年10月30日木曜日

第2部 かけ橋として/4 遊びから入る「なぜ」

(毎日 10月26日)

グラスに水を注ぎ、金属製のふるいでふたをする。
素早く逆さにひっくり返すと、ふるいは穴だらけなのに、
不思議なことに水はこぼれない。
驚いていると、実験してくれた元ソニーのエンジニア、竹内幸一さん
「水の表面張力で落ちてこないんですよ」と、いたずらっぽく笑った。

斜めから見ると、底に置いたコインが消えたように見える水槽、
回っているうちに逆立ちするコマ、姿見3枚で作った人間万華鏡……。
竹内さんは、科学の原理を利用した手作りのおもちゃや実験装置など
約80点をワゴン車に積み、各地を回って子どもに遊んでもらう活動を
02年から続ける。

おもちゃや装置を並べるだけで、基本的に説明はしない。
「なぜ?」と尋ねられても、「どうしてだろうね」と答える。

「それでも、幼稚園児だって自分で次から次へと触っていくし、
子ども同士で遊び方を教え合ったりする。
好奇心を持ってもらうには、遊びから入るのが一番。
原理などは、後で学校で習ったときに
『ああ、あのときのはこれか』と思ってくれればいい」

竹内さんは少年時代、ソニーが東京のデパートで開いた
少年電子科学展を見て、同社のエンジニアを目指した。
在職中は、家庭用ビデオカメラやビデオプロジェクターを開発。

89年にソニーが開いた科学展に携わった。
家族連れに人気の米サンフランシスコにある科学館の名をとった
「エクスプロラトリアム展」。
子どもが手で触って、さまざまな体験ができる体験型展示が売り物。

その後、大学の講義を受け持つようになり、工学系の大学でさえ
新入生の半数近くが、乾電池の電圧も知らない現状を知った。
「子ども時代の体験が足りない」と痛感。

この二つの経験が、今につながった。
100円ショップなどで部品を購入し、7万円で60種類ほどの
おもちゃや装置を自作し、活動を始めた。
評判を呼び、今ではひっぱりだこ。
昨年は、夏休みに40日間続けた東京都板橋区立教育科学館をはじめ
全国20カ所を回り、約4万5000人が足を運んだ。

出し物も増え、置き場所が悩ましい。
「本当は、そのときだけの出前イベントではなく、小学校の空き教室にでも
いつも置いておき、子どもが好きなときに来て遊んでいくのがいい。
どこか手を挙げてくれないかな」

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20081026ddm016040006000c.html

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