2010年3月15日月曜日

親と向き合う(5)対応力学び 真意酌む

(読売 2月25日)

危機管理の手法を、保護者対応に生かす。

「A君と違う部屋に変えてもらえませんか」
修学旅行を間近に控えたある日、B君の父親が学校に駆け込んだ。
素行が悪いと評判のA君と同室になり、部屋割りの変更を求めた。

「子ども同士で決めたことなので」と、担任教師。
「変えてくれるのですか」と尋ねる親に向かって、「ですからー」。
親が、「校長に代わってもらえますか!」と声を張り上げると、
素っ気なく答えた。「校長はいません」――。

八王子実践高校での講習会の一場面。
講師で招かれた「学校リスクマネジメント推進機構」
宮下賢路代表が、保護者を演じた。
「悪い教師」になりきった同校教員は、あえて言葉を遮ったり
責任逃れをしたりするよう、事前に指示。

宮下代表は、危機管理のコンサルタント業務に携わった経験を
生かし、全国の幼稚園から大学まで幅広く初期対応の研修を開催。

クレーム対応の基本について、
〈1〉誠実に謝る、〈2〉話を聴く、〈3〉言い訳をしない――を掲げ、
「まず、相手の感情を抑えることが大切」

典型的な例が、電車が遅れた時のアナウンス。
原因が鉄道会社にあるのか分からなくても、
「迷惑をかけた事実」を認めて謝罪し、利用者の怒りを抑える。

重大事故の発生確率を示す「ハインリッヒの法則」を引き合いに出し、
「保護者との対応でも、言い訳や問題の放置など、
クレームにつながりやすい小さなミスを減らすことが重要」

他業種で当然のことが、なぜ、学校では難しいのか?
権威ある存在に見られてきた先生は、謝るのに慣れていない。
一方で、親の意識は高まっている。
学校に託すのは、お金よりも重要な子ども。
企業の商品やサービスと比べ、求める真剣さが違うのに、
世の中の流れに学校がついていけない場合が多い」と宮下代表。

「となりのクレーマー」などの著書がある関根眞一さん(59)は、
大手百貨店の元社員。
「お客様相談室」で、数多くの苦情に対応してきた経験から、
昨年7月、「日本苦情白書」を刊行。
教育、行政、福祉、病院、金融などの8業種の計5059人を
対象に実施した全国調査をまとめた。

苦情の原因について、「こちらの配慮不足」と答えた割合は、
8業種の平均が50%、教育では31%と最も低かった。
相手の「勘違い」、「いちゃもん」の合計は、8業種中、最高の43%。
保護者の苦情を、最初から無理難題と受け止めやすい
学校の傾向が浮き彫りに。

関根さんは、「教員は言葉を発する職業で、
相手の真意を読み取るのが苦手。
対応力を学び、相手に胸襟を開けば、保護者の声が
『なるほど』と聞こえるのでは」

まず耳を傾けることで、苦情が無理難題ではなくなる。

◆ハインリッヒの法則

1件の重大事故の背景には、29件の軽い事故と、
事故には至らない300件の小さなミスがあるとする、
安全工学上の経験則。
医療や航空などの分野では、軽微なミスを集めた
「ヒヤリ・ハット事例」を分析、事故やトラブルの防止に役立てている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100225-OYT8T00232.htm

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