(読売 2月25日)
危機管理の手法を、保護者対応に生かす。
「A君と違う部屋に変えてもらえませんか」
修学旅行を間近に控えたある日、B君の父親が学校に駆け込んだ。
素行が悪いと評判のA君と同室になり、部屋割りの変更を求めた。
「子ども同士で決めたことなので」と、担任教師。
「変えてくれるのですか」と尋ねる親に向かって、「ですからー」。
親が、「校長に代わってもらえますか!」と声を張り上げると、
素っ気なく答えた。「校長はいません」――。
八王子実践高校での講習会の一場面。
講師で招かれた「学校リスクマネジメント推進機構」の
宮下賢路代表が、保護者を演じた。
「悪い教師」になりきった同校教員は、あえて言葉を遮ったり
責任逃れをしたりするよう、事前に指示。
宮下代表は、危機管理のコンサルタント業務に携わった経験を
生かし、全国の幼稚園から大学まで幅広く初期対応の研修を開催。
クレーム対応の基本について、
〈1〉誠実に謝る、〈2〉話を聴く、〈3〉言い訳をしない――を掲げ、
「まず、相手の感情を抑えることが大切」
典型的な例が、電車が遅れた時のアナウンス。
原因が鉄道会社にあるのか分からなくても、
「迷惑をかけた事実」を認めて謝罪し、利用者の怒りを抑える。
重大事故の発生確率を示す「ハインリッヒの法則」を引き合いに出し、
「保護者との対応でも、言い訳や問題の放置など、
クレームにつながりやすい小さなミスを減らすことが重要」
他業種で当然のことが、なぜ、学校では難しいのか?
「権威ある存在に見られてきた先生は、謝るのに慣れていない。
一方で、親の意識は高まっている。
学校に託すのは、お金よりも重要な子ども。
企業の商品やサービスと比べ、求める真剣さが違うのに、
世の中の流れに学校がついていけない場合が多い」と宮下代表。
「となりのクレーマー」などの著書がある関根眞一さん(59)は、
大手百貨店の元社員。
「お客様相談室」で、数多くの苦情に対応してきた経験から、
昨年7月、「日本苦情白書」を刊行。
教育、行政、福祉、病院、金融などの8業種の計5059人を
対象に実施した全国調査をまとめた。
苦情の原因について、「こちらの配慮不足」と答えた割合は、
8業種の平均が50%、教育では31%と最も低かった。
相手の「勘違い」、「いちゃもん」の合計は、8業種中、最高の43%。
保護者の苦情を、最初から無理難題と受け止めやすい
学校の傾向が浮き彫りに。
関根さんは、「教員は言葉を発する職業で、
相手の真意を読み取るのが苦手。
対応力を学び、相手に胸襟を開けば、保護者の声が
『なるほど』と聞こえるのでは」
まず耳を傾けることで、苦情が無理難題ではなくなる。
◆ハインリッヒの法則
1件の重大事故の背景には、29件の軽い事故と、
事故には至らない300件の小さなミスがあるとする、
安全工学上の経験則。
医療や航空などの分野では、軽微なミスを集めた
「ヒヤリ・ハット事例」を分析、事故やトラブルの防止に役立てている。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100225-OYT8T00232.htm
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