2010年3月19日金曜日

日本語を学ぶ(1)外国人の共生 言葉の壁高く

(読売 3月3日)

外国人との共生へ歩み始めた日本。
日本語教育の体制整備が急務だ。

飛沫感染、滲出液、吐瀉物……。
日本人講師が、漢字の書かれた紙を黒板に張った。
「この漢字の読みを書いてください」。
インドネシア人の男女が前に出て、次々に書いていく。

静岡県函南町の研修宿泊施設、富士箱根ランド。
経済連携協定(EPA)により、日本が2008年度に受け入れを
始めた、看護師・介護福祉士候補者インドネシア人2期生
361人の研修が行われた。

日本で正式に就労するには、看護師候補者は来日3年以内、
介護福祉士候補者は同4年目に、国家試験に合格することが条件。
初歩から始めた日本語の研修では、
専門用語など高度な内容にまで及んだ。

当初は、全体の9割が日本語初心者。
朝8時から夜9時までの缶詰め講義に、夜中までの自習体制のおかげで、
日常会話はほぼ問題ないレベルに。

昨年度は、1期生の看護師候補者104人中82人が
国家試験を受けたが、日本語という言葉の壁が立ちはだかり、
全員不合格。
全体の合格率は89・9%。

2期生で看護コースに参加していた女性、
シスカ・ヌルメナサリさん(25)は、「『骨折』など漢字が難しい。
音読みに訓読みもある。
母国で看護経験は2年あり、インドネシア語なら合格の自信はありますが、
日本語での受験にはもっと勉強しないと」と日本語習得の難しさ。

研修にあたった人材派遣・教育事業会社の担当者(49)は、
「国家試験独特の読解力習得が課題。
研修終了後は、個々のがんばりに期待するしかない」

「『認知症』と読めます、でも書くのはちょっと……
集中研修中は漢字で書けましたが」と頭をかくのは、
08年度来日の1期生男性、ディディ・スへディさん(25)。
母国の看護大学を卒業後、半年間の事前研修を経て、
昨年1月末から、奈良県天理市の老人保健施設「ならふくじゅ荘」で
研修生として働いている。

仕事は、週5日1日約7時間、入浴や排せつ、食事の介助など。
試験勉強は、仕事の前後の計2時間半。
国家試験を受けられるのは、2012年1月、1回きり。

同施設では、ディディさんら研修生がインターネット学習を週3回、
受けられるようにしたが、これだけでは試験合格は難しい、と
急きょ施設スタッフによる週2日の学習指導も加えた。
費用は、いずれも施設の持ち出し。

受け入れ責任者、岡田智幸さん(36)は、
「まず合格してもらいたい。日本を外国の人に助けてもらうのだから、
施設お任せでなく、国は長期的・継続的学習支援を」と訴える。

現場の声を受け、国も来年度以降、日本語学校通学の費用補助、
再度の集団研修開催など具体的支援に乗り出す。

安里和晃京都大学准教授(39)
は、
日本語能力や日本の医療事情に不案内な人材に対し、
国家資格取得という要件を課し、確実に取得してもらうプロセスが
欠如しているのは、人材の使い捨てと指摘されても仕方がない。
受け入れの展望を明確にした上で、支援体制を
整備しなければならない」

◆経済連携協定

物品やサービスの貿易以外に、人の移動や投資なども加え、
経済関係の強化を目指す協定。
09年度からフィリピン人候補者受け入れも始まり、計310人が来日。
27人は事前研修後、介護福祉専門学校で学ぶ「就学コース」に進む。

◇公的な日本語教育 不十分

外国人登録者数は、1969年以降年々増え、
2008年末で約222万人に及ぶ。
国内の日本語学習者は、約16万7000人(同年11月)。
入国後の公的な日本語教育は、義務教育を除くとほとんどなく、
長期滞在しても、日本語の読み書きができない外国人は少なくない。

文化審議会国語分科会日本語教育小委員会は、
来日したばかりの外国人を対象に、最低3か月(60時間)の
学習を想定した「『生活者としての外国人』のための
日本語教育の標準的なカリキュラム」を作成中。
ドイツでは、1年以上滞在してもドイツ語能力の低い移民らに、
600時間の語学教育を義務づけ。

文化審議会会長で日本語教育研究者の西原鈴子さん(68)は、
「日本語を母語としない人の割合は、いずれもっと高くなる。
そのときに混乱を招かないため、長期的な展望を持った
言語計画とシステムが求められる」

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100303-OYT8T00192.htm

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