2011年1月26日水曜日

インサイド:次代の針路 第4部 スポーツ留学生の受難/2

(毎日 1月19日)

高校駅伝の強豪、世羅高(広島)では、
県立校でありながら、02年からケニア人留学生を受け入れている。

それを可能にしているのが、学校と同窓会、住民らが一体となった
組織からの寄付金。
近年、厳しい不況の波にさらされ、寄付金は頭打ちに。
男女とも隔年でケニア人留学生を入学させてきたが、
11年度は男子のみとし、女子は見送ることに。

◆古豪復活の立役者に

世羅町内の有志による「国際交流推進会議」(小島敏文会長)が
組織されたのは01年。

寄付を集め、世羅高に入る留学生に学費や生活費など、
1人当たり年間約120万円を無償で支給。
これまでの留学生の数は、昨年の全国高校駅伝で快走を見せた
チャールズ・ディランゴを含め、男女計9人に上る。

男子は、第1回大会(1950年)で全国制覇を果たした古豪だが、
留学生を加えて06年に32年ぶりの頂点に立つまで、
日本一の座からは遠ざかっていた。

09年、6回目の優勝を遂げ、当初は留学生の導入に否定的だった
岩本真弥監督も、「復活したのは留学生のおかげ」

全国大会で活躍する世羅高陸上部は、町の象徴。
町歌「せらまち音頭」にも、「健児集まり 韋駄天きそい」の歌詞が登場。
駅伝の模様は、全国放送されるにもかかわらず、
町は都大路に自前の取材班を派遣し、7割を超える世帯が加入する
ケーブルテレビで放送する特集番組を製作するほど。

私立校に比べ、財源に乏しい公立校ながら、
留学生の受け入れが実現したのは、
陸上部の強化に対する期待が高かったからだ。

◆OBギタウも支援

肝心の寄付金集めは、年々難しくなるばかりだ。
当初は年間、個人1口1万円、法人1口2万円の会員制としたが、
「1万円単位で出すのは厳しい」との声もあり、金額の下限を設けずに
広く寄付を呼びかける。
寄付金は近年、右肩下がり。

事務局を担う伊木正法・同高事務長は、
「自転車操業に近い。留学生の人数を絞らないと厳しい」と頭を悩ませる。

2年前から、陸上部のOBらにも協力を求めている。
06年の優勝に貢献したジョセフ・ギタウ(JFEスチール)も、
その呼びかけに応えた一人。

ギタウは卒業後、遠征費などを負担する陸上部後援会に
会費を納めてきたが、「留学生の生活費になるし、
私の高校時代にも寄付してくれた人がいたから」と、
推進会議にも寄付を続ける。

ギタウは、入学前からマンツーマンで日本語の指導を受けつつ、
1、2年時は数学や農業科目を中心に学習。
3年時、日本の生徒と同様にすべての教科を履修。
日本語の読み書きやパソコン技術も習得。
実業団に進んでも、円滑に溶け込めた。

岩本監督は、「競技力の向上だけでなく、
留学生を育てるのもわれわれの仕事」

ケニア人にとって、ランナーとしての成功は、
「お金を稼ぐこと」に直結する。
日本の高校に3年間通うことは、遠回りにも映るが、
ギタウはその道を勧める。

「高校でも会社でも走ることは変わらないが、
(日本の高校に行けば)自分の人生に新しいものが手に入る」

世羅高からは昨春、ビタン・カロキがエスビー食品入り。
2年生のディランゴにも、誘いの声が掛かる。
留学生の生活を支えてきた基盤は揺らぎ、
受け入れの継続は厳しさを増しつつある。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2011/01/19/20110119ddm035050006000c.html

0 件のコメント: