2011年1月26日水曜日

フロンティア:世界を変える研究者/14 東北大教授・今村文彦さん

(毎日 1月18日)

仙台の街を一望する研究室で見せてくれたのは、
東海、東南海、南海地震が同時発生した際、
高知市を襲う津波のシミュレーション映像。

現地で調べた水門や建物の位置をもとに、
市街地に入り込む津波の細かい動きを再現した。
最新の成果の一つ。

「大津波に襲われたことがない近代都市に何が起きるか、
初めて具体的な被害が分かってきた。
被害を想定できれば、対策も立てられる」

日本列島周辺で人が感じる地震は、年1000~1500回に上る。
それに比べ、津波の頻度は低いが、発生すれば影響は甚大。
津波の脅威から人命を守るための研究は、必然的に重みを増す。

2万人以上が死亡した明治三陸津波(1896年)をきっかけに
始まった「津波の科学」は、日本が世界をけん引する。

今村さんにとっての原点は、100人が津波の犠牲になった
1983年の日本海中部地震。
水工学を専攻する大学生でありながら、
「津波の知識は素人同然」。

現地調査に入った秋田県峰浜村(現八峰町)では、
津波が砂丘を乗り越え、農作業中の住民をのみ込んだ。
「海がない山梨で育ったこともあり、衝撃を受けた」と振り返る。

東北大助手だった89年、震源と規模から各地点の津波の高さや
到達時間を、ほぼ瞬時に予測するシステムを作った。

基本式は「今村項」と名付けられ、遠くで発生した津波の予報の
基礎になっているほか、22カ国43機関に技術移転。

約20年前、10分に1度程度しか取れなかった潮位のデータが、
今では毎秒数センチの精度で分かるようになった半面、
昨年2月の南米チリ地震では、実測値が予測を3倍近く上回る地点が出た。

「実際に起こる現象は、非常に複雑」。
予測の精度を上げることは、永遠の課題。

<文明が進めば進むほど、天然の暴威による災害が
その劇烈の度を増す>と、警告したのは地球物理学者、寺田寅彦。

自然現象の津波を解明しても、人的被害は簡単には減らせない。
「避難勧告が出ても、1割程度しか避難しない実態がある。
行動次第で人的被害は1けた、2けた変わる」

津波災害を軽減するための新たな防災文化「TIMING」を提唱、
昨年、第1回気象文化大賞を受賞。

研究室では、大きな津波被害を経験したインドネシア、スリランカなど
約10カ国の留学生が学ぶ。
「留学生たちは、日本の学生の2、3倍勉強して帰る」
柔和な笑顔に、厳しさをのぞかせた。
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◇いまむら・ふみひこ

61年生まれ。東北大大学院博士課程修了。
同大助手、助教授を経て00年から教授。専門は津波工学。
研究の合間を縫って、国や自治体の防災対策への助言から
小学校の出前授業までこなす。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2011/01/18/20110118ddm016040008000c.html

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