2008年5月24日土曜日

植物の根が細長く成長するしくみを解明!

(nature Asia-Pacific)

奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科武田征士 特任助教

自らの意志で動くことができない植物は、生きるために必要な物質の
すべてを、生まれ落ちた環境で入手する必要がある。
葉や茎、根、花などが特徴的な形態をもつのは、
それぞれの細胞のかたちや機能を柔軟に変えることで、
限られた資源を効率よく利用するため。
根に生える根毛は、土壌中の水分や養分を効率よく吸収するため、
一つ一つの細胞が細長く成長することでできていく。

奈良先端科学技術大学院大学の武田征士特任助教は、
シロイヌナズナを用いて、根に生える根毛の細胞が一方向に
細長く伸びていくしくみを明らかにした。

根毛は、根の表面に生える細かな毛のことで、
陸上植物のほとんどがもつ。
「土壌中の水分や無機栄養分を体内に取り込む」、
「植物体を支える」、「土壌の微生物と相互作用を行う」といった役割。
毛の一本一本が細長いのは、根の表皮細胞の一部だけが
細胞分裂をせずに、先端方向にのみ成長した結果。

根毛の先端だけが成長するのは、なぜか?
シロイヌナズナの根毛の先端では、「NADPHオキシダーゼ」という
酵素が活性酸素を作り出していること、
作り出された活性酸素は細胞膜上のカルシウムチャネルを活性化して、
カルシウムイオンの細胞内流入を促すことが知られていた。

武田特任助教は、イギリス、ジョインネス研究所のリアム・ドーラン教授の
チームの一員として、東京理科大学の朽津和幸教授らとともに、
細胞に流入したカルシウムイオンに、
「NADPH酸化酵素を活性化して活性酸素の量を増やす機能」
があることを突き止めた。

RHD2遺伝子は、NADPH酸化酵素をコードし、
この遺伝子が働かない突然変異体では根毛が作られない。
この点に着目した武田特任助教らは、RHD2タンパク質の発現(局在部位)を
調べ、それが根毛の先端部分に限られることを明らかにした。

「NADPH酸化酵素は、活性酸素がたまる先端に蓄積し続けていた」。
活性酸素によって細胞内に流入したカルシウムイオンが、
今度はRHD2タンパク質を活性化させることも突き止めた。
根毛の先端で、RHD2活性化→活性酸素発生→カルシウムイオン流入
→RHD2活性化→活性酸素発生→……という正のフィードバック機構
回り続けることによって、根毛が一方向に成長し続けられるのでは」。

活性酸素は、ヒトでは免疫低下やがんを引き起こす。
有害物質を、根毛はなぜ利用しているのか?
「活性酸素は酸素が不対電子をもっている状態で、
エネルギーが高く、きわめて不安定。
このエネルギーが細胞膜やDNAを壊すことから、人体などに有害。
ところが、植物の根毛ではこのエネルギーを逆手にとって使うことで、
カルシウムチャネルを刺激したり、かたい細胞壁の構造を
ゆるめたりして成長を促している」。

根毛組織では、活性酸素が存在する先端でのみ細胞壁がゆるみ、
植物細胞としてはかなりのスピードで伸びていけるようになる。
根毛が有害物質である活性酸素を利用している点について、
武田特任助教は、「生物が害のあるものや毒のあるものを
上手に使う例は、たくさんある」。

動物にも、RHD2遺伝子と似た遺伝子があり、
病原体を殺すための活性酸素や、身体のバランスを保つ耳石を
作るための活性酸素を作り出している。
動物も、活性酸素の毒性を都合のよいように利用。
「根毛は、ある程度伸びると成長しなくなるが、
正のフィードバック機構を人為的に活性化させ続けることができれば、
これまでにない長い根毛をもつ植物を作ることができるかも」。

そのような植物は、やせた土地や乾燥した土地でも
効率よく水分や養分を吸収できる可能性がある。
受精卵というたったひとつの細胞から、さまざまな組織や器官ができていく
しくみに魅せられ、発生の研究を選んだという武田特任助教。
生物の基本となる「細胞のかたちづくり」を探求することで、
基礎研究の大切さをアピールしていきたい。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=98

0 件のコメント: