2010年2月21日日曜日

コンビニ交付に浮かび上がるIT戦略の空白

(日経 2010-02-04)

地方自治体が発行する住民票の写しなどの証明書を、
店舗で交付するサービスを、コンビニエンスストア最大手の
セブン-イレブン・ジャパンが始めた。

首都圏の3自治体を皮切りに、対象を順次増やしていく。
電子行政の最先端の取り組みだが、サービスのあり方から、
政府のIT戦略の空白ぶりが浮かび上がる。

「今回のサービスを通じ、電子行政の基本として
住民基本台帳カードが広がることを期待する」
渋谷区のセブンイレブン店舗で開かれた記念式典。
総務省の佐村知子官房審議官は、こうあいさつ。

始まったのは、住民票の写しと印鑑登録証明書を、
店内の複合機(多機能複写機)で打ち出すサービス。
顧客は、IC内蔵の住基カードをかざして本人認証し、証明書を申請。
複合機は、自治体側から受信したデータを普通紙に
偽造防止処理などを施して印刷する仕組み。

渋谷区、三鷹市、市川市の3自治体の証明書が、
セブンイレブン7店舗で受け取れるように。
5月、全国12600店舗で交付できるようになり、
対象自治体も2010年度には30程度まで増える見込み。

「当市は、労働力人口の6割が市外で働いている。
市民が勤務先近くのコンビニで証明書を取得できれば、非常に便利
市川市の大久保博市長は、コンビニ交付に名乗りを上げた理由。

市川市では、「06年度にウェブ上で行った市民アンケートで、
コンビニでの証明書の交付サービスへの要望が圧倒的に強かった」
これを受け、市はコンビニ各社と情報交換を繰り返してきた。

「民間として、初めて行政サービスを取り扱えるのは光栄」
(セブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長)。
同社も、地方税の収納代行、店舗での市町村施設の予約など、
自治体関連の業務を手がけてきたが、
顧客アンケートで最も要望が強いのが証明書交付。

証明書を印刷するのは、09年10月に導入を始めた最新の複合機。
2年前、仕様を詰め、ICカードのデータ読み取り装置を
装備することを決めていた。
コンビニ側も、店舗で住基カードを受け入れる態勢を周到に準備。

サービス開始の直接のきっかけは、総務省が07年度に主宰した
「電子自治体の推進に関する懇談会」。
自治体のIT担当者らに加え、コンビニ各社がオブザーバー参加。
証明書のコンビニ交付は、08年にまとめた報告書に盛り込まれた。

新サービスで、自治体には証明書の交付窓口の混雑緩和や
専用の自動交付機を置く負担を低減する利点。
コンビニ側は、手数料収入を得られ、集客の新たな目玉と位置付け。

自治体、コンビニとも既存の通信インフラなどを転用するため、
大きな追加投資は不要、「利用者を含む全員にメリットがある」
とサービス開始を歓迎。
一方、「電子行政の理想像に比べれば、まだまだ過渡期のサービス」

総務省の08年の報告書に列挙されたIT利用の具体策のうち、
現時点で実現したのは、証明書のコンビニ交付だけ。
自宅のパソコンでの証明書取得など他の施策は、
文書の正しさを電子的に証明する電子署名が
一般に普及していることを前提にし、実現のめどが立たない。

IT業界には、一般市民が電子署名しやすくする手法として、
電子署名機能を持つICカードを配布する構想。
セブンイレブンでの証明書交付で使われる住基カードは候補の1つ。
現時点では、住基カードには署名機能はないうえ、
普及率は3%程度。

02年に稼働した住民基本台帳ネットワークシステム自体が、
安全性などが疑問視、国立市など参加しない自治体が残る。
国民IDの付与などで、電子行政を推進するには、
一定の政治判断が欠かせない状況。

09年12月、日本経団連が開いた電子行政に関するシンポジウム。
「(内閣府が所管する)IT戦略本部をどう運営するか、
総務省、経済産業省と10年1月に議論を始める」。
内閣府の津村啓介政務官は、IT担当を兼ねる
菅直人副総理・国家戦略相の指示。

00年、IT戦略本部は、国民IDなど国全体のIT政策を描く司令塔。
IT業界は、鳩山由紀夫政権の発足以降、
同本部が開店休業の状態にあると批判、
津村政務官の発言はそれを意識。

菅副総理が、財務相兼務に横滑りしたのに伴い、
IT担当は川端達夫文部科学相に変更。
それが影響したのか、「鳩山政権はまとまったIT戦略を
打ち出しているとは言い難い」状況が続く。

証明書のコンビニ交付のように、地方と民間の創意で
電子行政が前進するのは歓迎すべき。
政府のIT戦略の空白のため、動きに勢いがつかないようでは報われない。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt100203.html

0 件のコメント: