2010年3月2日火曜日

ネットの長城は中国政府を守れるか

(日経 2010-02-25)

中国政府は、インターネット利用に身分証の登録などを
求める実名制を導入する方向で検討。
中国では、米ネット検索最大手のグーグルが、
1月、中国市場からの撤退をかけ、検閲撤廃を当局に要求、
米中間の政治問題に。
中国のネット利用者は、世界最大の3億8400万人。
世論への影響力は急激に増し、
中国当局は、規制強化を加速する方針。

「ネットの安全問題は、厳しい挑戦にさらされ、
管理をさらに強化する」——。
北京で開かれた工業情報化省の幹部会議で、
同省の李毅中相は、演壇で握り拳を振り上げた。

李氏は、具体策として、ネット利用に実名制を導入する方向で検討。
中国のネット利用者3億8400万人のうち、携帯電話経由が
2億3300万人、携帯電話の通話契約にも実名制を導入。

北京市で、年内にも実名制の試験運用を始める計画。
パソコンに接続したカードリーダーで、身分証を読み取らないと、
ネットを利用できないようにすることなどを検討。
浙江省杭州市でも、実名制を導入する方針。

実名制の実効性を高めるため、中国当局は1月末、
パソコンや携帯電話の利用時に指紋などを使って、
利用者を確認する生体認証の標準技術化を進める
専門チームも立ち上げた。
湖北省の公安当局に、ネット犯罪撲滅を目的とする
専門要員の訓練基地も設けた。

中国政府は、1990年代からネット規制に着手。
「金盾工程(プロジェクト)」と呼ばれるネット検閲システムで、
民主化運動やポルノなど、中国共産党が有害と指定した
サイトを閲覧できず、電子メールの利用も制限。
要注意人物のネット利用状況の監視も手掛ける。

2008年
1月 動画共有サイトの運営を中国国有企業に限定
2009年
3月 「ユーチューブ」が、恒常的に閲覧不能に
6月 中国当局がグーグルなどに有害情報を掲載していると批判
7月 国内販売パソコンに検閲ソフト搭載を義務付け(直前に延期)
9月 多くの動画共有サイトが閉鎖に追い込まれる
2010年
1月 米グーグルが中国市場撤退を視野に、当局に検閲撤廃を要求
2月 中国当局がネット利用に実名制導入を検討

最近では、中国に100万カ所以上あるといわれる監視カメラや、
携帯電話とも連携しているとされ、要注意人物の詳しい行動や
社会全体の動きも把握。
現在は、全国で3万人以上とされるネット検閲官が
人海戦術で対応、将来は全自動での作動を目指す。

「海外に対し、情報の公開を約束した北京五輪が終わり、
ネット規制が急激に厳しくなった」
住民運動を支援する弁護士。
2009年1月、国務院新聞弁公室、工業情報化省、公安省など
7省庁が合同でネット規制の強化に乗りだした。

09年、チベット動乱から50年、天安門事件から20年を迎える
節目の年、中国当局は治安維持を最重視。
3月、グーグルの動画サイト「ユーチューブ」が恒常的に閲覧不能、
6月、グーグルが低俗情報を提供しているとして、
英語サイトが一時的に閲覧不能。

5月、当局が7月から国内販売パソコンに「検閲ソフト」搭載を
義務付けると通知。
ヒューレット・パッカード(HP)など、米メーカーが米政府と共同で反発、
義務付けは見送り。
今でも、レノボ・グループ(聯想集団)などの国産商品の一部は搭載。

なぜ、中国政府はネット規制を強化するのか?
ネット利用者が多いだけでなく、世論形成で大きな力を
持ち始めたことが背景。
中国共産党機関紙の人民日報は、09年、中国社会が注目した
事件の約3割は、ネットからの世論形成だったと分析。

公安省は09年、9000サイトを閉鎖、150万以上の情報を削除。
有害な情報を流した容疑者5394人を身柄拘束、
刑事事件としての検挙数は08年の4倍。
工業情報化省によると、10万以上のサイトを閉鎖。
10年、さらに取り締まりを強化する方針。

「金盾」の別名は、「グレート・ファイアウオール・オブ・チャイナ」。
万里の長城にちなんだ名前だが、万里の長城は
外敵の侵入を完全には防ぐことはできず、王朝の崩壊に。
ネットの長城が、中国共産党の外敵を防げるか予断を許さない。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt100224.html

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