2011年3月3日木曜日

漢方最前線(4)葛根湯、2000年の歴史

(2011年2月21日 読売新聞)

中華料理店で「湯(スープ)」のメニューを見ると、
煎じ薬を連想してしまう。
クコ、百合根、ショウガなど、薬食共通の素材も多い。

富山大学和漢医薬学総合研究所の小松かつ子教授(54)は、
「東アジア全域から集めた数百種の薬用資源が、
漢方処方に投入されている」

煎じ薬は、「機能性食品」の究極だと感じる。
落語にも登場する風邪薬、「葛根湯」は、桂皮、麻黄、甘草、
大棗(たいそう)など7種類の生薬をブレンド、数十分煮込んだスープ。

桂皮はベトナム、麻黄や甘草はモンゴルや中央アジア、
大棗は黄土高原からもたらされる。

「インフルエンザ初期の典型的な症状、首や背中に痛みがあり、
悪寒が強く、熱も出てきた、
こんな時期に、熱々の葛根湯を飲んで寝ると、汗が出て、
ぐったり疲れを感じる。

これが回復への第一ステップ。
私たちに備わる治癒力のプログラムが起動したというサインで、
多くの人は、このまま休んでいれば治る」

日本東洋医学会長の寺沢捷年・前千葉大教授(66)は、
ウイルスを直接攻撃するのではなく、免疫系を調整して
短時間に自然治癒力を引き出す治療薬。
「タミフルなどない時代の知恵で、現代の治療薬に劣らず、今も有効」

1種類の生薬ではこの効果は出ず、7種の組み合わせ、配合比に
秘密があるようだが、だれがそんな遠隔地の材料を集め、
薬効を実験したのか?

葛根湯のレシピが記載された最も古い中国の文献は、
2世紀の「傷寒雑病論」。

その3世紀前、ゴビ砂漠の前漢の城塞跡などで出土する木簡文書に、
すでに同種の感染症の処方せんが残っている。

2000年以上、人々の健康を支えてきた生薬資源が今、
危機を迎えている。

甘草は、モンゴルなど砂漠周辺部の野生種。
「地下2mにも伸びる地下茎を掘るため、
採取自体が砂漠化を促進し、資源の枯渇を早めている」(小松教授)。

中国政府は、甘草や麻黄など重要生薬の輸出管理を強化。
「レアアース」に加え、「レアハーブ」問題も懸念され、
国内の製薬会社も生薬国産化を始めている。

武田薬品工業・京都薬用植物園の尾崎和男主席部員(58)は、
「甘草、大黄(だいおう)などは、自社製品を全量調達できるよう、
国内各地で栽培実験を進めている」

小松教授は、「栽培、遺伝子組み換え技術など、
生薬確保にも科学の知恵が欠かせなくなる」。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/2/22/132706/

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