2011年3月2日水曜日

イオン参入で議論に ゆれる葬祭

(日経 2011/2/5)

伝統的な葬祭文化が揺れている。
寺院からの檀家離れ、高齢化・無縁社会化が進んでいる。
葬送の形も多様化、簡素化する中、
葬式不要論のベストセラーが反響を呼んだ。
葬儀に対する現代人の意識は、大きな転換期を迎えている。

◆「料金表」の衝撃

流通大手イオンの葬祭業参入が、伝統的な仏教界に波紋。

イオンは昨年5月、葬儀に僧侶を紹介する
「寺院紹介サービス」を全国的に始めた。
通夜、葬儀などでの読経と戒名の授与がついた
数タイプの料金表を目安として示した。

これが、仏教各派で構成する全日本仏教会(全日仏)を刺激。
「8宗派の許可を得ている」との文面が。
全日仏が各宗派の本山に聴取すると、許可の事実はない。

全日仏は6月、イオン側に葬儀をビジネスではなく、
心の問題としてとらえ、本山の許可を得ているという
文言についての謝罪を求めた。

料金表に基づき、契約が成立すると、税法上、仏事が
請負業とみなされる問題も想定される、との懸念を伝えた。

イオン側は、料金表を削除するとともに、ホームページ上に、
総本山が許可したのではなく、紹介する宗教者は、
「宗教法人の寺院または宗派(8宗派の総本山)が認めた寺院のみ」と、
不適切な表現であったことを認めた。

イオンに続き、他の流通企業が葬祭事業への参加を検討する
動きもあり、寺院側にとって予断を許さない状況。

もう一つの衝撃は、宗教学者の島田裕巳氏が、
昨年初めに出した著書「葬式は、要らない」がベストセラーとなり、
葬儀の問題を議論する機運が一気に盛り上がった。

島田氏は、先進国の中でも、葬儀に多額な費用を強いている
日本の現在の葬儀事情を考察し、
葬式仏教化している仏教界の状態に疑問。

一条真也著「葬式は必要!」、
橋爪謙一郎著「お父さん、『葬式はいらない』って言わないで」
など、葬儀の意義を強調する著作物も刊行。

人の死に対し、葬儀という「けじめ」が必要であり、
遺族のグリーフケア(悲嘆からの回復)も考える必要性を指摘。

◆孤独死で直葬

島田氏の本が注目された背景には、時代の変化がある。

過疎地では、檀家がいなくなった寺院が、
自律的な運営をできなくなっている。

都市部では、寺院との関係が薄れ、葬儀の重点が
家から個人に移る中、樹木葬、散骨など、葬送の形も多様化。

高齢化、無縁化による孤独死が目立つようになり、
高い葬儀費用を経済的に負担できない所帯も増加傾向。

葬儀をせず、遺体を直接火葬場に送る「直葬」という
スタイルが増えている状況。

仏教寺院側は、危機感を募らせている。
9月中旬、全日仏による公開シンポジウム
「葬儀は誰の為に行うのか? お布施をめぐる問題を考える」が
東京で開催。

同シンポに参加した芥川賞作家で、僧侶の玄侑宗久師は、
「個々の人たちに、どれだけ寄り添えるかが、葬儀では重要」、
都市部の宗教的浮動層が行う葬儀を、
全国同一の「葬儀」として論じるのは問題だとの見解。

各宗派でも、葬儀問題について前向きに取り組み始めた。

9月の浄土宗定期宗議会では、
イオンの葬祭業参入問題が論議の的。

真言宗智山派は、11月に東京地区合同教区研修会で、
島田氏を招き、「葬儀のあり方」で激論を交わした。

浄土真宗本願寺派は11月、築地本願寺で葬儀をテーマにした
教学シンポジウムを催した。

日蓮宗は、現代宗教研究所が11月の研究発表大会で、
葬儀問題を論議、今年1月、葬儀をテーマに次世代教化研修会を開いた。

葬儀についての考え方を確認するため、冊子を発行する動きも。

浄土宗は昨年末、「浄土宗の葬儀と年回法要について」と題する
冊子を発行、宗内寺院に配布。

真宗本願寺派は、葬儀の意義を解説した
「『浄土真宗本願寺派葬儀規範』解説―浄土真宗の葬送儀礼」を刊行。

◆関係を再確認

キリスト教でも、カトリックの研究組織、オリエンス宗教研究所が、
「キリスト教葬儀のこころ」を発刊。

葬儀をめぐる波紋は広がっている。
仏教学者の末木文美士・国際日本文化研究センター教授は、
「葬式仏教は、家父長制を支えるため、近代になって確立、
戦後、核家族化が進む中、ここ20~30年を境に急速に崩れてきた。
今は、新しい葬儀の在り方を模索する過渡期」

死体処理の技術向上によって、死についてのケガレ意識が
薄まったことも大きい。

「千の風になって」の歌がヒットしたように、
死後の世界が美化されてとらえられるようになった状況も挙げる。

島田氏も、葬儀を全否定していない。
葬式には、一人の人間がさまざまな人間と結んだ関係を
再確認する機能がある。
その機能が十分に発揮される葬式が、
何よりも一番好ましい葬式かもしれない」

葬儀が必要かどうかという二項対立的な議論よりも、
葬儀の本来の意味を再考し、各人がよいと信じる形で
送られることが望まれている。

http://www.nikkei.com/life/culture/article/g=96958A90889DE0E0E5EAE2E4E4E2E2E1E2E0E0E2E3E39091EAE2E2E2;p=9694E3EBE2E6E0E2E3E2EBE7E3E6

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