(読売 6月12日)
「人間は生まれながらにして自由であるのに、
いたるところで鉄鎖につながれている。
じゃあ、我々の自由を妨げる具体的な制約とは何か、考えてみよう」
18世紀の思想家ジャン・ジャック・ルソーの言葉を引用しながら、
問いかける教員。
その言葉を合図に、武蔵野大学の「基礎セルフディベロプメント」の
授業は、グループワークへと移った。
なかなか自分の意見を言えない学生をけしかけようと、
久富健教授(62)(教務部長)が次々と班を回り、議論に加わる。
学生から「親の考え」と声があがると、
「僕のおやじは、明治生まれの古い人間で、
大学生のときは反発ばかりしていた」と若かりし日を語ってきかせた。
文部科学省のGP(優れた取り組み)に2度選ばれた
同大のキャリア教育は、今年度から大きく変わった。
学部の壁を取り払った全学共通基礎課程を導入。
その柱が、基礎セルフだ。
「学科横断の混成チームを編成した学生が、哲学、世界文学、
歴史学など七つのテーマを順番に学ぶ。
最後はチームで研究を行い、その成果を発表して、
課題発見・解決能力、チームワークなどを身につけてもらう」
久富教授が改革の狙いを説明。
日本語・日本文学科1年の宮寺佑さん(19)は、
「高校までは、まわりの意見に合わせてしまうところがあったが、
相手の意見を聞きながら反論する力がついてきた」
授業支援スタッフ(SA)を務める環境学科4年の
夏井志保さん(21)は、IT企業から内々定を取り、
就職活動を終えたばかり。
「教員を目指して進学したが、初年次からキャリア開発科目を受け、
将来なりたい自分を考え続けた結果、もっと社会を知りたくなった。
社会人として、学校以外の職場も経験しておくべきと、
視野が広がった」
同大のキャリア教育を推進するのは、
キャリア教育が専門ではない専任教員。
外部講師に任せると、キャリア教育が教養・専門科目から
独立しているとの認識を学生に与えてしまう。
「キャリアと自分の専門科目とを関連づけるよう、教員の意識を改革し、
キャリア教育が学内で標準化されるよう目指す」と、
久富教授は今後の展望を熱く語る。
人生の歩み方を考えさせる教育が浸透し、
アカデミズムと一体化していけば、キャリア教育という言葉自体、
もはや必要なくなるのだろう。
◆GP
大学などが申請した教育プロジェクトの中から、
優れた取り組み(Good Practice)を選び、
財政支援する文科省の事業。
武蔵野大は、2003年度「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」、
07年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」に採択。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100612-OYT8T00293.htm
0 件のコメント:
コメントを投稿