2010年10月25日月曜日

(サイエンスポータル 2010年10月19日)

鈴木章、根岸英一両氏のノーベル化学賞受賞で、
久しぶりに科学記事が連日、新聞紙面をにぎわしている。
科学記事が科学欄以外に載る比率は、政治、経済、社会などの
記事に対し、非常に少ないから、余計に目立つ。

鈴木章、根岸英一両氏の業績をたたえる記事がほとんどだが、
両氏を含め、2000年以降にノーベル賞を受賞した日本人10人の
業績が1980年代以前のものばかりではないか、という指摘。
浮かれてばかりでよいのか、ということ。

こうした指摘と、最近よく言われる日本人の科学リテラシー低下、
理工系学部希望者の激減、といった科学技術立国の掛け声に
反する現実があいまって、日本の科学、技術の現状あるいは
将来に対する悲観論が一方で根強く聞かれる。

このような“世論”に、真っ向から反論する人も。
北澤宏一・科学技術振興機構理事長がその1人。

日本の大学の力量は、論文、特許などの数から見ても、
かつてより大幅に向上、論文被引用数で世界のトップになる
研究者も相次いでいる。
日本の基礎研究はここ数年、むしろ十分な成果を出している。

問題は、日本企業の元気がなく、これらの基礎研究成果に
投資しないことだ、という。
昔の研究成果しか評価されていない、という指摘に対し、
日本の代表的な競争的研究資金制度、ERATO、CREST、さきがけ
という科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業がスタートしたのは、
1995年以降(ERATOの前身「創造科学技術推進制度」発足は81年)。
これらに支援された研究者たちが、ノーベル賞を受賞するのは
これからの話、というわけ。

こうした論議が起きるのはなぜか?
新聞の基礎研究に関するニュースに、成果重視の傾向が強いことが、
一つの理由。
ノーベル賞は別格として、研究成果が発表されたとき以外、記事になりにくい。

「サイエンス」、「ネイチャー」といった権威ある雑誌に論文が載ると、
記事になりやすい。
こうした記事ばかりでは、今、基礎研究の分野で、
何に研究者の関心が向き、何の解明、答えが追求されているか、
普通の人には分からない。
さまざまな領域にわたる研究成果を、散発的、断続的では、
基礎研究の世界の大きな流れをとらえることはできない。

科学技術振興機構が、戦略的創造研究推進事業「ERATO型研究」で
今年スタートする新規研究領域と研究総括を発表。
一般の新聞に、ニュースとして取り上げられることもなく、
発表の仕方も、文部科学省の記者クラブに資料を持っていくだけ
(説明がない資料だけの発表を、業界用語で「投げ込み」)。

発表資料には、「卓越したリーダーのもと、多様なバックグラウンドを持つ
若手研究者が結集し、時限的なプロジェクトの中で、
新しい科学技術の源流を生み出すことを目的として、
独創性に富んだ探索研究(研究期間:5年程度 研究費総額は
最大15億円程度)を実施する」、というERATOの目的。

こうした説明に、執筆意欲をかきたてられる記者はいなかった。
ことしは、変化が起きた。
山形新聞が、16日朝刊1面で取り上げた。

新たに選ばれた5人の研究総括の1人である
東山哲也・名古屋大学大学院教授(研究領域:ライブホロニクス、
戦略目標:生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出)
が、山形県出身(県立鶴岡南高校卒)で、
科学技術振興機構の提供資料を基に、東山教授に取材。

この記事を読んだ県内の読者が、技術につながる可能性がある分野として、
生命システムの研究が重視されていることに関心を持ち、特に鶴岡南高校の
同窓生や後輩たちなど、東山氏と縁のある人々に科学を身近に感じてもらう、
といった効果を同新聞は期待。

こうした報道が普通になるには、新聞側だけでなく、発表側にも
積極的で、きめの細かい情報提供が必要。
今後、このような動きが広がり、新聞の科学報道が
“成果重視“から、研究者の人となりにも焦点を当て、
科学、技術のより大きな流れもよく分かるようなものに
徐々に変わるなら、読者にも歓迎される。

<新規ERATO研究領域・研究総括(東山教授以外)>

・彌田 智一 東京工業大学 資源化学研究所教授
(広島県立三津田高校、京都大学卒、研究領域:創造時空間、
戦略目標:最先端レーザー等の新しい光を用いた物質材料科学、
生命科学など先端科学のイノベーションへの展開)

・香取 秀俊 東京大学 大学院工学系研究科教授
(茨城県立土浦一高、東京大学卒、研究領域:創造時空間、
戦略目標:最先端レーザー等の新しい光を用いた物質材料科学、
生命科学など先端科学のイノベーションへの展開)

・竹内 昌治 東京大学生産技術研究所准教授
(山梨県立甲府南高、東京大学卒、研究領域:バイオ融合、
戦略目標:プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製)

・村田 道雄 大阪大学 大学院理学研究科教授
(大阪府立豊中高校、東北大学卒、研究領域:脂質活性構造、
戦略目標:生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出)

http://www.scienceportal.jp/news/review/1010/1010191.html

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