2010年10月28日木曜日

低料金で外国人客呼び込む 所得増、高齢化もにらみ 競争激化する医療観光

(2010年10月15日 共同通信社)

低料金で質の高い医療を提供し、観光を兼ねた外国人客を
呼び込む「医療観光」をめぐり、アジア各国の競合が熱を帯びている。
最先端医療を掲げるシンガポール、もてなしを前面に押し出すタイ。
多剤耐性菌拡散への関与も指摘されたインドは、"激安"で勝負。

▽国民のため

シンガポール中心部のマウント・エリザベス病院は、
近隣国の元首相や米ロック歌手らも訪れる。
制服姿のコンシェルジュが応対、ビザ取得や家族のホテル手配まで、
至れり尽くせりのサービス。

世界の医師約1100人と契約、ロボット手術システムなど最新技術も導入。
「診断から手術終了まで、48時間以内」というスピードも売り。
スリランカから肝臓治療に来た50代男性は、
「安くはないが、五つ星ホテル並みの施設で最先端医療が受けられる」

2008年、シンガポールを訪れた医療観光客は、
前年比約13%増の64万6千人、
収入は19億シンガポールドル(約1190億円)。
12年には、年間100万人を目指す。

高度医療が、欧米の2~3割の費用で受けられるのは、
国民が低料金で、質の高い医療を求めていることが背景。
政府の医療関連支出が、GDP比約4%と米国の4分の1にすぎず、
「医療は個人の責任」との考えが浸透、病院は料金を自由裁量で決め、
競争原理が働く仕組み。
外国人も、医療費は変わらない。

医療観光が医療費高騰を招いている、との指摘もあるが、
政府当局は「シンガポールは小国。
外国人患者を受け入れなくては、医療水準が向上しない。
医療観光推進は国民のため」と言い切る。

▽通貨危機が転機

タイは、政府推進の「メディカルハブ構想」の下、
08年に140万人を誘致、640億バーツ(約1739億円)を稼いだ。

医療観光が注目されたのは、1997年の通貨危機がきっかけ。
4割が外国人患者、というバンコクのバムルンラート病院の
メイズ部長は、「経営危機を脱する方法は、バーツ安を逆手にとった
外国人誘致だった

「米国並みの医療が破格の料金で受けられる」と評判、
01年の米中枢同時テロ後、渡米が困難になった中東諸国から、
患者が押し寄せた。

心臓バイパス手術の費用は、米国の約5分の1。
12カ国語に対応する通訳サービスや患者の嗜好に合わせた食事など、
「ほほ笑みの国」タイならではのきめ細かいもてなしも前面に出す。

▽市場拡大

インドの場合、競争力の源泉は圧倒的な低コスト。
人件費を安く抑え、新薬に比べ、開発費の負担が少ない
ジェネリック薬を利用できるからだ。

「優秀な医師をそろえているが、費用はシンガポールの3分の1、
タイの半分」というニューデリーの民間病院マックス・ヘルスケア協会では、
2年前に比べ、外国人患者数は4倍増。
インド全体の07年の総数は、45万人。

各国の外国人患者の数は、マレーシアが34万人(07年)、
フィリピンが10万人(09年)、韓国が6万人(同)など、
日本も流れに乗ろうと、医療観光推進を新成長戦略に盛り込んだ。

高成長が続くアジアでは、所得増に伴う医療支出増大は確実で、
20年以降、マレーシアやベトナムなどが相次いで高齢化社会に突入。
外国人患者の争奪戦は一層激化しそう。

※医療観光

医療機関での受診を目的に外国へ行き、観光なども兼ねること。
インターネットの普及や国際交通網の発達を背景に拡大。
現在、約50カ国が受け入れ、2008年の推計利用者は約600万人。
欧米や中東から、低料金で質の高い医療を求めて、
アジアの病院を訪れる人が増加。
07年、アジアの主要国が年間約300万人を受け入れたというデータ、
一大拠点となりつつある。

外貨獲得の手段として、タイやシンガポールは、
ビザ取得要件を緩和するなど国を挙げて誘致政策を展開。
多剤耐性菌の移動への関与も指摘。

日本でも、高度な医療技術を産業として海外に売り込もうと、
政府が新成長戦略に盛り込んでおり、健康診断や検診を中心に
市場規模は5500億円。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/10/15/126940/

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