2010年10月30日土曜日

トップアスリートに学ぶ! 勝つための集中力(上)

(日経 2010/9/3)

米女子ゴルフツアーで勝利を重ね、世界ランキング上位を
キープしている宮里藍。
絶好調の背景には、メンタルコーチの存在がある。
最高の力を出し切るにはメンタル面を強化し、集中力を発揮することが
必須だと、トップアスリートたちは身に染みて感じている。
その集中力は、実は「おまじない」で、コントロールが可能。
トップアスリートたちの手法を学んで、ビジネスに生かそう。

イチロー、北島康介、テニスのラファエル・ナダル…。
これらの選手に共通する強さの秘訣は、“おまじない”──。

厳しいトレーニングで、肉体と技術を磨いているトップアスリートが、
おまじないをするとは、ちょっとイメージに合わないかもしれない。
その効果は、臨床スポーツ心理学の研究によって実証、
多くのアスリートたちが効果を上げている。

おまじないの効果とはズバリ、集中力のコントロールだ。

鹿屋体育大学の児玉光雄教授は、
集中力は、対象が自分の内面か外部のものか、
一点に集中するか広範囲に集中するかで、4つに分けられる


◆4種類の集中力をビジネスに生かそう!

野球選手が、バッターボックスに立つ時は、ピッチャーが投げる
ボール一点に神経を研ぎ澄ます。
つまり、「狭く外的な集中力」を発揮。

テニスプレーヤーは、相手やボールの動きを把握しながら状況を判断し、
臨機応変にゲームを展開させていかなければならない。
これには、「広く外的な集中力」が求められる。

狭く内的な集中力」は、自分が成功している姿をイメージすることで、
パフォーマンスを向上させる力。
本番直前に頭の中で、リアルに想像することがカギとなる。

広く内的な集中力」は、どのような戦略で物事を進めるか、
事前に計画を立てたり、過去のプレーを振り返ったりする時の集中力を指す。

外部の一点に向けて集中力を絞り込んでいく、「狭く外的な集中力」。
イチローは、この集中力に長けている。
その秘密は、打撃の瞬間までに「決め事」を作っておいて、
それをこなすこと。

イチロー選手は、打つ瞬間までの動作がいつも同じ。
毎度寸分たがわず、意識的にやっている。

毎度行うこの動作を、「プリショットルーチン」と呼ぶ。
「細かい動きとその順序は、イチローが何万回も行っていること。
パブロフの犬の実験のように、行動(ここではバッティング)の前に行う
動きを、脳に刷り込んでおく。
これで、毎回同じように集中力を高めることができる」(児玉教授)。

「並の選手は、ピッチャーがボールを投げた瞬間から
バッティングが始まりますが、一流選手はそのずっと前から始まっている」

これは、仕事にも応用できる。
会議に出る前、プレゼンを行う前の決め事をあらかじめ設定しておく。
「会議の前、ネクタイを結び直す」といったものでいい。
会社の中の同じ場所(いつも行くトイレなど)で、同じ手順で、
同じリズムで行う。
何度も実践して脳に刷り込むほど、効果は高くなる。
自分にしっくりくる方法を、いろいろ試してみることも必要。

「イチローは起床時間も、朝食のメニューも決めている
(以前はカレーライス、今は讃岐うどん)」。
朝起きた瞬間から、仕事のためのフォームを組み立てられれば、
準備はより万全になる。

【イチローに学ぶ「おまじない」活用のポイント】

◎バットを構えるまでの動きはいつも同じ。
1.ウエーティングサークルで、入念にストレッチを行う。
2.バッターボックスでは土をならしながら、右手でバットをぐるっと1回転。
左手でユニホームの右肩をちょっとつまんでから、バットを構える。

◎効果
「ここ一番」で行う決め事を、あらかじめ脳に刷り込んでおけば、
どんな時でもその動作を行うことにより、呼吸や精神のリズムを整えられる。

◎ビジネスに応用
気合を入れて挑む仕事の前、いつも通りの決まり事を作る。
営業職の人が、外に出かける時、必ず右足から踏み出すとか、
大事な会議の前にネクタイを結び直すなど。
意識的に同じ所作、リズムで行うようにする。

イチローの集中力が、「狭く外的な集中力」なのに対し、
パンパシフィック選手権で優勝、見事な復活を遂げた
水泳の北島康介は、「狭く内的な集中力」。

「狭く内的な集中力」とは、自分自身の内面にある記憶や感覚などに
焦点を当てる集中力。
具体的には、「メンタルリハーサル」という方法で行う。
サッカー選手が、フリーキックをける前にボールの軌跡をイメージ。

北島康介は本番前、入念なメンタルリハーサルを行うことで、効果を上げている。
レース直前、ロッカールームにこもって、ヘッドホンで音楽を聴きながら
集中力を高めていくが、「100m平泳ぎで1分、200mなら2分くらい、
競技本番と同じ時間をかけて、水温や水をかく感触まで再現。
人間の脳は、リアルに思い描いたことを実現する力があるので、
本番直前、メンタルリハーサルを行うことは非常に効果がある」(児玉教授)。

◆「うまくいく」ことを想像する

仕事では、大事なプレゼンの前など、メンタルリハーサルをやるべき。
相手の前で自分が堂々と話し、見事にコンペを勝ち抜く姿をリアルに思い描く。

ポイントは、練習でうまくいった時の様子や、過去の成功例を、
映像としてイメージすること。
成功後に喜んでいる自分の姿でもいい。
五感を総動員して、できるだけ具体的に思い描く。
リアルなほど集中力は高まり、本番のパフォーマンス向上につながる。

周りが騒がしくて集中できない時、「ガラス瓶テクニック」を使うと、
自己暗示的に喧騒をシャットアウトできるので、併せてやってみよう。

周りが騒がしい状況で集中したい時、ガラス瓶の中に
自分が閉じ込められた状態をイメージすると、不思議と気にならなくなる。
メンタルリハーサルの時に使うと効果的。

【北島康介に学ぶ「おまじない」活用のポイント】

◎レース直前に頭の中でリハーサルを行う
泳ぐ直前、ロッカールームにこもり、ヘッドホンで音楽を聴きながら、
自分が泳ぐ姿を鮮明にイメージする。
実際のタイムと同じ時間をかけて、水をかく感触や、水の温度までも
具体的に頭の中で思い描く。

◎効果
人間は、頭の中に思い描いたイメージを、その通りに実現する力がある。
五感を総動員して具体的にイメージするほど、その能力は高まる。

◎ビジネスに応用
大事なプレゼンの直前、もう一度頭の中でリハーサルをする。
話している自分の姿、自分の息遣いや声のトーンまで、
具体的にイメージすること。
成功した瞬間の自分の姿をイメージするのもよい。

◆児玉光雄氏

鹿屋体育大学教授。1947年生まれ。京都大学工学部卒業。
20年以上にわたり、臨床スポーツ心理学者として、
プロフェッショナルの思考・行動パターンを分析。
メンタルコーチとして活躍中。
近著『イチローの「成功習慣」に学ぶ』(サンマーク出版)。

http://www.nikkei.com/biz/skill/article/g=96958A9C93819499E2E3E2E29B8DE2E3E2EBE0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;p=9694E2EAE2E3E0E2E3E2E1E6E1E4

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