2010年11月27日土曜日

ブラジルのスポーツ政策

(sfen)

◆ブラジルの特徴

サッカーのワールドカップでは、過去19回大会すべてに連続出場、
5回優勝している唯一の国。
ブラジルがサッカー大国であることはよく知られているが、
近い将来、この国は世界屈指のスポーツ大国としての
成長も遂げるであろう。
広大な国土、豊富な資源を背景に、今や中国、ロシア、インドとともに
新興経済国BRICsの雄として躍進、
ブラジルの勢いに世界中の注目が集まっている。

4年後の2014年、1950年以来2度目のサッカーワールドカップを開催。
6年後の2016年、南米大陸初となる歴史的なオリンピックを、
リオデジャネイロで開催。
スポーツの2大メガイベントの成功を目指して、
ブラジル政府は、都市インフラを整備し、治安問題の改善を図り、
さまざまなスポーツ振興政策を図ってきた。

◆ブラジルのスポーツ環境の特徴

ブラジルのスポーツ環境の特徴として、多人種・多民族で構成される
社会に根づいた総合型地域スポーツクラブの多様性があげられる。
1888年の奴隷制廃止後、黒人の代替労働力として導入された
欧州移民たちは、新天地に次々とクラブを創設し、
近代スポーツを移入した。

19世紀末に伝えられたサッカーを通して、イギリス人、ポルトガル人、
イタリア人、ドイツ人をはじめ、各国移民のクラブが
アイデンティティと威信をかけて盛んに競合し、
そこへインフォーマルな草サッカーに興じていた貧しい黒人や
混血の人々が取り込まれていった。
ブラジルにおけるスポーツの大衆化やプロ化は、
サッカー界において先駆的に進展した。

地域、移民、人種、社会階層の多様性を反映したスポーツクラブが
百花繚乱し、日々のスポーツ実践の舞台となっている。
今日、サッカー以外にバレーボール、ビーチバレー、
フォーミュラー・ワン(F1)などが世界のトップレベルを維持、
バスケットボール、柔道、空手、ボクシング、水泳、
サーフィンなども盛ん。
アフリカ起源のカポエイラ、先住民が継承する伝統スポーツ、
カーニバルでお馴染みのサンバも、見逃すことはできない。

◆スポーツ関連法設置の経緯

ブラジルは、過去2回のクーデターと2度の権威主義的政治体制を経験。
1度目は、世界恐慌によるコーヒー経済の破綻後、
農業に替わる工業化を図るべく登場した
ヴァルガス独裁政権(新国家体制1937~45年)。
2度目は、社会主義化したキューバや中国への接近に反発して
登場した軍事政権(1964~85年)。

2つの政権下、中央集権的政策はスポーツにもおよび、
1941年『大統領令』[Decreto-Lei nº 3.199/41]では、
国内スポーツ競技団体がすべて全国スポーツ評議会(CND)傘下に
統制され、その内容は34年後の1975年『スポーツ法』[Lei 6.251/75]へ
引き継がれた。
サッカーワールドカップにおける3度の優勝(1958年、62年、70年)が
ことごとく国威発揚と政治宣伝に 利用され、
当時ブラジル・サッカーの栄光は、一方で「民衆のアヘン」と揶揄された。

1985年の民政移管後、民主主義を謳う1988年『新憲法』が公布、
第217条で「スポーツを行うことは国民の権利である」ことが明記。
スポーツは、国家の直接干渉から脱し、
競技団体やスポーツ統括組織の自立的活動が保障されるに至った。

その後、旧態依然としたブラジル・サッカー界の諸側面を、
スポーツの国際標準に適合させるための諸改革が次々と打ち出され、
スポーツ関連法の発展がみられた。

1993年、いわゆる『ジーコ法』[Lei 8.672/93]や、
1988年、『ペレ法』[Lei 9.615/98]、それらの改正法によって、
新リーグの創設、クラブの企業化、選手とクラブの契約是正、
テレビ放映権契約の規定、国営宝くじ収益のスポーツ財源化などの
さまざまな問題解決が図られていった。

◆スポーツ国家政策の内容

ブラジルのスポーツ所管省の変遷は下表のとおり。
2003年、ルラ政権によってスポーツ省が設置。

<ブラジルにおけるスポーツ所管省の変遷>

 年    所管省            担当組織
1941年 教育保健省        体育課 (DEF)
1970年 教育文化省        体育・スポーツ課 (DED)
1978年 教育文化省        体育・スポーツ局 (SEED)
1990年 大統領府         スポーツ局 (SEDES)
1992年 教育スポーツ省      スポーツ局 (SEDES)
1995年 国家スポーツ特別大臣 全国スポーツ推進機関 (INDESP)
1998年 教育スポーツ省      全国スポーツ推進機関 (INDESP)
1999年 スポーツ観光省      全国スポーツ推進機関 (INDESP)
2000年 スポーツ観光省     全国スポーツ局 (SNE)
2003年 スポーツ省        全国スポーツ・レジャー推進局 (SNDEL)
                     全国高度化スポーツ局 (SNEAR)
                     全国スポーツ教育局 (SNEED)

2005年、スポーツ省の全国スポーツ評議会(CNE)は、
「スポーツ国家政策」(Política Nacional do Esporte)を発表。
今日、この国家政策は3つの主要組織により実施。

第1は、「全国スポーツ・レジャー推進局(SNDEL)」、
レクリエーションやレジャーに関するスポーツ社会政策、
スポーツ科学技術政策などを担当。

第2は、「全国高度化スポーツ局(SNEAR)」、
さまざまなレベルの競技スポーツ政策(青少年スポーツから
リオデジャネイロオリンピックまで)、スポーツ・タレントの発掘、
国のスポーツ・イベント・カレンダー編成などを担っている。

第3は、「全国スポーツ教育局(SNEED)」、
学校教育に関するスポーツ政策、生涯スポーツ政策、
スポーツ文化政策などの分野を所管。

2010年3月、「サッカーに関する特別専門調査機関」設置。
法務当局や検察当局と協力し、競技環境の改善や
サポーター関連法の整備を行うほか、
2013年コンフェデレーションカップ、2014年ワールドカップに向け、
ブラジル・サッカー連盟(CBF)との連携を図っている。

◎山本栄作

高知学園短期大学講師。
在メキシコ日本国大使館専門調査員、
日本学術振興会サンパウロ研究連絡センター派遣研究者、
筑波大学助手を経て現職。
共著、「教養としてのスポーツ人類学」(大修館書店)など。

http://www.ssf.or.jp/sfen/sports/sports_vol10-1.html

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