2011年2月25日金曜日

咀嚼、脳にもいい「よくかむ」 刺激伝わり覚醒/認知機能に影響も/食事は繊維を多く

(2011年2月18日 毎日新聞社)

食べ物をよくかむことは、消化促進や肥満予防につながる。
脳の働きとの関係の研究も進み、心身の健康へのプラスの効果など、
咀嚼の重要性がさらに注目。

「よくかんで食べるということは、人間の健康にとっては、
いいことずくめの行為だ」
小野塚實・神奈川歯科大教授。
料理や器の見た目(視覚)、味、香りなどの五感への刺激に加え、
かむという行為で、脳に刺激を与えられる。

小野塚さんらは、65歳以上の高齢者1000人以上を対象に、
かむことと記憶の関係について調べてきた。
64枚一組の写真を覚えてもらい、一部を差し替えたもう一組の写真を見て、
「同じものを見たかどうか」を答えてもらうテストで、
約2割の人は、ガムを2分間かんだ後に記憶してもらった時の方が、
かまずに記憶した時より、正答率が15%以上アップ。

東北大などが、仙台市内の70歳以上の高齢者約1200人を対象に
実施した調査では、健康な人は平均14・9本の歯が残り、
認知症の疑いのある人は9・4本。

脳をMRIで調べると、歯が少ない人ほど、
記憶に関係する海馬付近の容積が減少。
小野塚さんは、「歯を使って、かむという行為自体に、
認知機能にプラスの効果があるのではないか」

泰羅雅登・東京医科歯科大教授(神経生理学)によると、
よくかむからといって、アルツハイマー病や脳血管疾患など、
認知症の原因を予防できるという根拠はないものの、
脳に刺激を与え続ける一つの方法にはなりうる。

脳からあごを動かす筋肉に信号を伝える「三叉神経」は、
歯ごたえなど、歯や口の粘膜の感覚を脳に伝えるルート。
三叉神経は、覚醒(頭がさえた状態)をコントロールする
「脳幹」と呼ばれる部分につながっているため、
何かをかんで、脳幹に刺激が伝わると脳の覚醒につながる。

泰羅さんは、「ガムをかむと、頭がすっきりするといわれるのは、
三叉神経を介したこうした働きも関係している」

かんで食べるという行為は、非常に複雑で、
脳との関係についてはまだ分からないことも多い。
あごと舌では、それぞれ動かしたときに働いている
脳の領域が少し異なる。

泰羅さんは、「咀嚼は、大脳の内側の大脳辺縁系がつかさどる
本能的なシステム(生きるために食べること)と、
大脳新皮質がコントロールする人間の意思や理性に関係する
システム(楽しんで食べること)の両方が、
うまくバランスをとっていると考えられ、非常に興味深いメカニズムだ」

「よくかむこと」の目安として、厚生労働省などは、
「一口30回」を例に挙げている。
「数えるのが面倒くさい」という人も少なくない。
猪子芳美・日本歯科大新潟生命歯学部講師は、
「食物繊維を多く含む食品をメニューに加えると、
意識しなくても、30回の咀嚼と同程度、食べ物をかむことができる」

猪子さんらは、健康な成人男女12人にピーナツ(2粒)と
生のニンジンの角切り、それぞれ約2gずつを食べてもらい、
咀嚼回数や咀嚼に関係する筋肉の動きなどを調べた。

咀嚼回数を指定しなかった時、のみ込むまでの咀嚼回数は、
ピーナツが平均24・5回、ニンジンは27・1回。
ちょうど30回咀嚼した場合と比べると、
ピーナツの場合だけ咀嚼時間が短く、筋肉の活動量も少なかった。

猪子さんは、「どちらも歯ごたえのある食品だが、
ピーナツはすぐに砕けて、のみ込めてしまう。
食物繊維の多いものは、かんでもなかなか小さくならないので、
時間をかけてかむことになる。
咀嚼回数を増やすことに一生懸命になるのではなく、
繊維を多く含むものをメニューに取り入れて、
食事を楽しむ中でしっかり食べ物をかんでほしい

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/2/18/132566/

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