2011年2月23日水曜日

フロンティア:世界を変える研究者/15 東京大宇宙線研究所教授・鈴木洋一郎さん

(毎日 2月15日)

宇宙を構成する物質の7~8割を占めながら、
謎だらけの「暗黒物質」を捕まえる。

東京大宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設で始まる
「XMASS(エックスマス)実験」の責任者として、
約30人のスタッフを率いる。

「存在が分かってから約40年、
物理学を学んだ者なら、誰でも知りたいと思って来た大きな謎。
(暗黒物質検出の)信号がいつ見えるか、わくわくしながら準備している」

現在の想定では、暗黒物質は、我々の周囲にも
1立方メートル当たり3000個ほどあり、
秒速270kmの猛スピードで飛び交っているが、光も電波も出さず、
他の物質ともほとんど反応しない。

実験では、マイナス100度に冷やした液体キセノン850kgを詰めた
球体の内側に、微弱な光も感知できる検出器(光電子増倍管)を
800本並べ、暗黒物質がキセノンと、
ごくまれに反応して発生する光をとらえる。

十数年前、このアイデアを発表した国際会議では、
「キセノンはきたない(不純物のクリプトンが多い)から駄目だ」と不評、
「他人がやらないなら、やれば面白いと感じた」

検出には、放射線などによるノイズを、
「10日間、まったく信号が出ないくらい」の極限にまで落とす必要。
キセノン中のクリプトンを、従来の1000分の1に減らす製法を開発。
光電子増倍管自体のノイズも、1000分の1に落とすことに成功。

米国のライバルたちの50倍の感度が期待。
「(暗黒物質を)見つける、見つけないという結果ではなく、
目標感度を達成できること自体が成果」

根源的なことを考えるのが好き。
大学受験は文学部哲学科も考えたが、
「未知の領域に足を踏み入れ、他人の見ていないものを見る」
魅力に取り付かれ、一貫して実験物理の道を歩いてきた。

素粒子ニュートリノの質量について、
現在の理論に見直しを迫る成果を上げてきた
「スーパーカミオカンデ」実験でも、指導的立場を担った。

暗黒物質は、宇宙にあふれる星や銀河を形作る
原動力になったと考えられている。
「137億年の宇宙の歴史を、最初から現在まできちんと
理解するのが究極の夢。
あと100年かかっても、できるかどうか分かりませんが」
暗黒物質検出の瞬間、その夢が一歩前進するに違いない。
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◇すずき・よういちろう

東京都生まれ。79年、京都大大学院理学研究科(物理学専攻)
博士課程単位取得退学。同年理学博士。
米ブラウン大研究員、大阪大助手などを経て、96年から現職。
04~08年に宇宙線研究所長。
01年、仁科記念賞。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2011/02/15/20110215ddm016040006000c.html

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