2011年3月7日月曜日

漢方最前線(5)高齢社会に養生の知恵

(2011年2月25日 読売新聞)

「おなかの底から、気味の悪い冷気がどっと上がってきて、
動悸が止まらない」

「のどの奥に、梅干しのタネのようなゴロゴロしたものが詰まって、
せきをしても取れない……」

診療室では時々、びっくりするような訴えがある。
臨床検査を繰り返しても、これといった原因が見当たらず、
医師、患者双方が苦しむケースも多い。

平馬直樹・日本医科大学講師(58)は、現代医学では
相手にされないような症状でも、漢方医学には治療の手がかりがある。

「それぞれ奔豚気(ほんとんき)病、梅核気(ばいかくき)と呼ばれる症状。
現在では、パニック症候群や自律神経失調症に属すが、
昔からこうした患者がいた。
中国・漢時代から治療法が記録」。
「気」の巡りを改善させる治療薬で、症状が軽減する例も多い。

漢方医療には内科、精神科などの診療科はない。
心と身体を、ことさら区別しない「総合診療」が持ち味。
「医療の根幹をになうのは、西洋近代医学。
漢方は、野球でいえば外野の外の球拾いの役割。
主力陣が持てあます症状の中には、漢方医学で対処できるものもある。
両医学をうまく組み合わせることが大切

その総合診療の良さが発揮されるのは、高齢者医療。
そこでは、医師に頼るだけではなく、
患者本人の健康への自覚も問われる。

漢方薬は、この30年で日本の医療に広く普及したが、
「漢方医学そのものの理解は進んでいない」と、ベテラン医師たちは指摘。

丁宗鉄・日本薬科大学教授(63)は、
「大切なのは、養生の知恵。
未病のうちに気づく、節制し、保養すること。
年齢と共に、臓器や組織にトラブルが起こるのは人の当たり前の姿。
不具合を全部取り除くのではなく、不自由でもその範囲で快適さ、
生活の質を維持できればよい。
西洋医学も含めて、医療の考え方をこうした方向に組み替えていくべき」

石田秀実・九州国際大学名誉教授(60)は、
「世界の伝統医学の多くが、過去のものとなった中、
中国伝統医学は、心身を全体的に把握する、
とりわけて豊かなシステムと現実的有効性を持っている」

その文化資産を上手に活用できるかどうかは、
私たちの老後にも大きな影響を与えるだろう。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/2/28/133069/

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