2011年6月25日土曜日

入院期間の短縮実現  術後回復強化プロトコル 欧米で拡大、日本へも

(2011年6月14日 共同通信社)

どんな管理をすれば、手術後の患者の回復が早まり、
入院期間を短縮できるのか?
「術後回復強化(ERAS)プロトコル」と呼ばれる手法が注目。

有効性が確認された麻酔や輸液、栄養などの管理方法を組み合わせ、
総合的に実践するもので、近年、欧米の先進的な医療機関で導入が拡大。
日本での普及は遅れているが、一部に積極的な施設も現れ始めた。

▽手術当日に歩行

一昨年、大阪府済生会千里病院。
病棟の廊下に、男性患者(76)と看護師らの談笑の輪が広がった。
男性は前日、結腸がんで開腹手術を受けたばかり。
痛み止めの麻酔薬を、脊髄の硬膜外に持続注入する装置を首からぶら下げ、
明るい表情で歩き回っていた。

「痛くないですか」
太田博文消化器外科部長が心配して尋ねると、
男性は、「こんなこともできますよ」と言って両腕を左右に大きく振り、
上体をひねって見せた。
男性は、この日の朝食から、三分がゆを食べ始めた。

昨年秋、直腸がんを腹腔鏡手術で切除した女性(83)は、
手術室から帰って約7時間後にベッドを離れ、
両脇を抱えられながら病室内を歩行。
消灯までの2時間、椅子に座っておしゃべりを続け、
翌朝には五分がゆも食べた。
太田さんは、「ここまで元気になるものかと驚かされた」

▽術前に炭水化物

手術当日や翌日は、点滴の管をつながれてベッドで寝たきり。
食事開始は4~5日後。それが従来のパターン。
なぜ2人は、これほど早い回復を見せたのか?
背景には、同病院が2008年2月に導入したERASプロトコルが。

ERASは、1990年代半ばにデンマークの医師が提唱した周術期
(手術前から手術中、手術後まで)の管理方法。
結腸、直腸などの大腸手術で発展し、海外では肝臓や膵臓にも広がりつつある。
太田さんは07年の英国留学の際に知り、帰国後すぐに試みた。

「回復力を強め、術後を楽に過ごす。
合併症の減少や入院期間の短縮を図り、経費を削減する。
科学的に『良い』ことを総動員する」

従来の大腸手術では、前日夕から絶食するが、飢餓状態で手術に臨むと
血糖値が上がり、体の負担が大きくなることが報告。
ERASでは、手術の6時間前までの食事を認めた上、
2時間前に炭水化物を含む飲料を摂取するよう勧めている。

▽4日で退院可能

手術後、速やかに目覚めるように、超短時間作用型の麻酔薬を使用。
過剰な輸液は、腸がむくんで食事が取れなかったり、
合併症を増やしたりするため避ける。
術後は、硬膜外麻酔などでしっかり痛みを取り、早期離床を図る―などを推奨。

千里病院では、導入から09年までに大腸がん手術71症例にERASを適用。
従来の方法による52例と成績(中央値)を比べると、
ERASでの食事開始日は術後1日(従来は同5日)、
最初の排ガスは同1日(同3日)、最初の排便は同2日(同4・5日)、
手術後の入院日数は同12日(同19日)、明らかに短縮。
再手術や再入院、合併症などの発生率には差が無かった。

実際の入院日数とは別に、排便や、五分がゆ以上の食事を退院条件とした場合、
中央値は術後4日で、医学的には極めて早期に退院が可能に。

今後の普及には、課題も多い。
導入には、麻酔医や看護師、栄養士など、職種を超えた院内の協力が不可欠。
早期退院による病院経営への影響も検討する必要。

「外科医が、熱意を持って周囲を説得することが大切。
患者さんの利益は大きいので、是非普及させたい」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/6/14/137940/

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