(読売 12月23日)
大学選びのための情報を分析する授業が始まった。
首都圏の大学が送ってきた案内パンフレットを教壇に山積みし、
杉森共和教諭(45)が呼びかけた。「今日は、大学を読み解きましょう」
東京都立葛飾総合高校。
2年生約40人が選択する「現代語表現」の10月下旬のテーマは
「情報の読み解き」。
あふれる情報の中から、自分に必要なものを正確につかむ力をつけるとともに、
大学選びにも役立てる一石二鳥を狙った授業。
パンフレットと一緒に配られたのは、読売新聞の「大学の実力」調査のコピー。
授業は、両方の資料で大学のデータを調べることから始まった。
生徒の目はまず、イラストや写真で彩られたパンフレットに吸い寄せられる。
だが、杉森さんからの課題を見て表情が変わった。
「どんな大学で、どんな学生生活になるかをイメージする上で大切なことだよ」
課題は、パンフレットから在籍学生数、4年(医学部などは6年)で
卒業できる割合を示す卒業率や退学率などを調べ出すことだった。
「ないよ?」「そっちも?」
生徒は、パンフレットを手にして不満を口にし始めた。
志望大学のパンフレットを見て、「何も出てない。これじゃ写真集」と言う生徒や、
「大学の実力」のデータに目を通しながら、
「回答してない大学があるのはなぜだろう」と首をかしげる生徒も。
意見が出尽くしたころ、杉森さんは「白いうそ」と黒板に大書した。
「事実と異なる『真っ赤なうそ』に対して、こちらは大切な事実を隠すこと。
『白いうそ』を見極め、発信者の狙いを読み取らないと、
情報に踊らされるだけだよ」
それは、進路選択の岐路に立つ2年生への強烈なメッセージだった。
高校教員となって20年余りたつ今も、進路指導のあり方に違和感がある。
福岡県の進学校で、自分自身が受けた指導と基本は変わらない。
偏差値が高い難関大学に入ることが、安定した人生へのパスポートと、
いまだに唱えているように映る。
昨年4月に開校した葛飾総合高校への転任を希望したのは、
そうした指導を新しい学校で見直したかった。
「大学の実力」を見た時、「読みにくいが、これは使えるな」と直感。
大学は、どのように学生を育てる所かを見極め、
進学するかどうかもじっくりと考えたい。
「一人ひとりの生徒を支え、伸ばす、それが進路指導だ」
翌週の「現代語表現」で、生徒たちはリポートをまとめた。
多くが大学のパンフレットを、「自校の良さを伝えるもの」と受けとめ、
「白いうそを見極めなければ」と結んでいた。
二つの資料を読み比べ、「パンフレットではどんな学校かわからない。
もちろん『大学の実力』だけでも」と、厳しく評定するものも。
大半の生徒は、情報を読み取り、最後は自分の目や耳や足で
確かめることの重要性を自覚。
2年生は、葛飾総合にとって初めての卒業生となる。
それだけに、国分達夫校長(54)は授業を、「まだ不十分」としながらも、
「こうした取り組みをきちんと育て、個に対応した指導を実現したい」と意欲。
生徒の多様化に対応して設けられた総合学科の高校から、
新しい大学選びが始まろうとしている。
◆「大学の実力」調査
偏差値やブランドによらない大学選びのための情報提供をしようと、
読売新聞社が全国の4年制大学を対象に今春行った初の調査。
725校中499校が回答。
卒業率や退学率、補講率、学生による授業評価の実施状況など、
教育力向上への取り組みをテーマに約50項目を質問。
◆入試の多様化 悩む教員
高校の進路指導が難しくなっている。
最大の要因は、大学の多様化。
入試形態だけでなく、4年制だけで400種以上の学部、
1700種以上の学科があり、「グローバルスタディーズ学部」、
「感性デザイン学科」など、教育内容や職業選択にどう結びつくのか
イメージしにくい名前も多い。
生徒の夢や希望も多様化していることも、高校教員を悩ませている。
リクルートが、全国の高校の進路指導主事に行った調査(2006年)によると、
回答した813人のうち91%が、「進路指導は難しい」と答えた。
進路が多様な総合学科高校では、97%に達していた。
困難にしている要因は、「生徒の進路選択・決定能力の不足」が65%で最多。
「入試の多様化」、「生徒の学力低下」など、
生徒や入試環境の変化を挙げる声が目立った。
進路指導の現状についても、
「指導に十分な時間を割けない教員が多い」(56%)といった、
校内体制の不備のほか、能力不足を感じている教員も少なくない。
大学が大きく変化する中、今も「偏差値で輪切りにするしかない」
(首都圏の高校教員)と考える教員が目立つのが実情。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081223-OYT8T00206.htm
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