2008年12月28日日曜日

大学選び(2)退学率公開 刺激に

(読売 12月24日)

教師と生徒は、大学の退学率から何を学び取るのか。

「なんで退学するのかな」
私立武南高校の3年H組の39人が、黒板に張り出された模造紙に
首をかしげていた。「行きたい大学ベスト10」。
青山学院や明治、立教など生徒たちの人気投票で選んだ大学名の下に、
読売新聞の「大学の実力」調査に掲載された退学率が書かれている。

願書提出を控えた12月3日。
「総合的な学習の時間」は、大学進学の意味を見つめ直すことを目的に、
大学中退の問題を取り上げていた。

「大学の名前だけで選んだから?」、「学費がなくなったのかも」、
「勉強が難しい」、「学ぶ意味が見つけられなかった」……。
次々に意見を口にする生徒の姿に、
同校の葛西紘一ガイダンスセンター長(64)は手応えを感じていた。

葛西さんの提案を受け、同校が進路相談を一括する窓口として
同センターを設けたのは20年前。
難関の県立や私立高の“滑り止め”で入学し、負け犬意識を抱えた生徒が
大半を占める現実に、葛西さんは、単なる進学指導ではなく、
入学時からの一貫した支援が必要だと実感。

葛西さん自身、長年夢見ていた新聞記者の職を病気のため1年で失い、
1967年に同校に着任。
「道はどこからでも開ける」と生徒に伝えたかったのだ。

同センターは、さまざまな悩みを抱えた生徒の居場所として定着。
6年前に始まった「総合的な学習の時間」を使って、3年間で計72時間、
進路を考える授業も担当。
生徒に、自分の長所や夢を何度も書かせ、自信を持たせることが軸に。

葛西さんは、進学希望者に、志望校のオープンキャンパス(大学見学会)と
学園祭、普段の大学の様子をのぞくよう指導。
保護者に対しては、入学が決まったら、100万円前後となる
初年度納付金を、現金で子供に見せてほしいと求めている。
進学への覚悟を固め、責任を感じてもらいたいから。

この数年、生徒が変わってきたと感じる。
「なんでこの大学なの」と尋ねると、何度も大学に足を運んで調べた
教育の内容や雰囲気を説明できる生徒が増えている。
進学の重みを学ぶ生徒に、門外不出だった退学率の数字は刺激に。

授業の終盤には、「目的意識を持って進学することが大切」、
「イメージで選んではいけない」と、大半の生徒がまとめていたが、
「退学は必ずしも悪ではない。新たな人生のチャンス」と、
前向きに受けとめる声も。
志望校が退学率を無回答だったことに対し、
「何か隠しているのかも」と不安を訴える生徒も。

葛西さんは、退学率の公開を待っていた。
高校も大学も、入れることだけを考えすぎていないか。
退学者の背景を知りたい。大学と話し合う場がほしい」と訴える。

生徒一人ひとりの人生を見つめた進路指導への模索が続く。

◆欧米では珍しくない退学率公表

読売新聞社の「大学の実力」調査では、
入学から1年間と4年間(医学部などは6年間)の退学率を質問、
499校のうち約9割が数値を答えた。
昨年4月入学者の1年間の退学率は0~13%。
日本では、これまで大学ごとの退学率がまとめて公表されたことは
なかったが、欧米では珍しくない。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081224-OYT8T00195.htm

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