(日経 12月26日)
日本のインターネット業界から明るい話題が減っている。
2008年は、けん引役だったミクシィとディー・エヌ・エーの成長に陰りが見え、
ヤフーや楽天も世界的な景気悪化で経費削減に軸足を移した。
話題となったのは、iPhoneやグーグル・ストリートビューなど
米国発の製品やサービスの上陸ばかり。
2009年に、日本のインターネット企業は元気を取り戻せるのか?
◆好調企業にも減速感
2008年は、「勝ち組」とされたネット企業の成長に減速感が見られた1年。
SNS「モバゲータウン」を運営するディー・エヌ・エーは、
10月に2009年3月期の業績見通しを下方修正。
利益率の高いアバターの販売が頭打ちとなり、
「下げ止まったとはいえない」(南波智子社長)。
本業が好調な企業にも、危機感は広がっている。
ヤフーは、広告は好調だが景気後退により求人情報などの
企業向けサービスが失速。
井上雅博社長は、「経費の削減を継続し、経営の効率化を目指す」
楽天は、11月の決算発表時に説明資料を、A3用紙の裏表に
小さめの表示でぎっちりと書き込んだ。
三木谷浩史社長が提唱する「ケチケチ作戦」の一環。
「楽天市場はまだまだ利益率を上げられる」と三木谷社長は話すが、
放っておいても、市場の伸びにあわせて収益が拡大する状況ではなくなった。
米国発の金融危機は世界同時不況へと波及し、市場は混乱が続く。
インターネット企業は、これまで市場規模が拡大基調にあり、
景気との連動性が低いとされたが、株価はさえない。
ディー・エヌ・エーやミクシィの株価は、年初来高値に対して
半分以下の水準に落ち込む。
比較的堅調なヤフーでさえも3割以上安い。
ネットベンチャーが多く上場する新興市場は、株価低迷が続き、
東証マザーズ指数、ヘラクレス指数とも算出来安値圏で推移。
東証一部なども合わせた新規上場は49社と、昨年から6割減少。
上場のハードルが低い新興市場での資金調達をテコに、
高成長を持続するモデルは機能不全に陥ったまま。
◆日本のネット産業は枯れた?
ネット企業の進化が頭打ちなのか、起業家を育てる環境に問題があるのか。
1990年代末に、ネット起業家の交流活動「ビットバレー」を西川潔氏とともに
仕掛け、創業間もないミクシィに出資した小池聡ngiグループ社長は、
「日本のネット産業は枯れてしまった」と苦笑。
「検索エンジンとブラウザーが重要なインターネットの世界では、
だいたいやりつくしてしまった感。
ベンチャー投資をしているが、『おおっ』というようなビジネスプランに
出会うことは減っている」
起業意欲を持つ人材も、ここにきて減ってきた気がする。
「以前は、大手商社で通らなかった思い入れのある企画を、
独立して始めたいという人がいたものだが、最近は見られなくなった。
金融危機で、安定志向が出ているかもしれない」
小池氏は、悲観はしていないともいう。
引き合いに出すのは、12月17日に上場したグリーだ。
市場環境が厳しいなかでの上場だったが、初値は公募価格を5割上回り、
時価総額は1000億円を超えた。
グリーの田中良和社長は、「ゲームなどは低価格のエンターテインメントで
不況に強い。SNSは、まだ伸びしろがある」と上場会見で強気の姿勢。
田中社長は、かつてngiの前身であるネットエイジでアルバイトをしていた。
そのころからの付き合いとなる小池氏は、
「ネットに限らず、起業家は試行錯誤を繰り返して経験を積む。
それで成功する可能性が高まる。
あとは、成功にたどり着くまでに時間がかかるかどうかだ。
確かに深刻な状況だが、この嵐が過ぎれば後は楽になる一方。
ベンチャーにはチャンスになる」
◆かつての「革命児」はどうみるか
ITバブル崩壊、新興市場ブームとその後の低迷、
そしてWeb2.0ブームと金融バブル崩壊。
ネット企業は、これまでも山谷をいくつも経験してきたが、
「100年に1度」といわれる今回の危機も乗り越えて、
成長と進化を続けられるのか。
新興市場低迷の始まりとなった2006年の「ライブドア事件」で、
一審に続き今年7月の二審でも懲役2年6カ月の実刑判決を受け、
上告中の堀江貴文ライブドア元社長。
ネット業界にとってはすでの過去の人となったが、上昇と転落を経験した
かつての「革命児」の目に、今の風景はどう映っているのだろう。
◆業界全体がスピードダウンした
12月初旬都内で会った堀江氏は、サブプライムローン問題に端を発した
市場の混乱については、「バブルの崩壊と生成って、何回も繰り返してきたこと。
循環でしょう。バブルって別に悪いことではないし、
『景気がいい』と『バブル』はほぼ同義語といっていいくらい」と、
以前と変わらぬ口ぶり。
ライブドアが、ニッポン放送に敵対的買収を仕掛けた当時、
資金面で力を貸したリーマン・ブラザーズをはじめ、金融バブルを演出した
多くのプレーヤーがすでに市場から姿を消した。
しかし、「資金が余れば、カネは行き先を求める。
投資銀行はいずれ復活するでしょう。
すでに割安な株を買い始めているかもしれない」
では、日本のネット業界は以前と今でどこか変わってきただろうか。
「僕がライブドア社長をやっていた頃は、業界全体がすごく焦っていた。
社内でも、『早くやれ早くやれ』って言っていたし、ものすごい先行投資をしていた。
僕が、ネット業界全体をせかしていたかもしれない。
いなくなって、みんなラクになったんじゃないかな。
ライブドアの事件で、日本のネット業界はスピードダウンしたと思う」
堀江氏は、今年8月に友人である藤田晋氏が社長のサイバーエージェントで
ブログを再開した。
社長時代にブログを書いていたライブドアのサービスも使って、気がついた。
「インターフェースが何も変わってないし、機能も追加されていない。
自分が社長だったら、『これじゃダメだ』って言った。
あれから何やってたんだろうなあ」
◆開拓の余地はまだまだある
2008年に海外では、2月にマイクロソフトが米ヤフーに買収を提案。
グーグルは、ヤフーとの提携を検討したほか、
秋にはブラウザーソフトの配布をするなど、着々と
「クラウド・コンピューティング」の世界へと布石を打った。
ブレーキを踏むことが敗北と同義のような米国に比べて、
日本のネット企業はスピードの点でますます引き離されている。
必要なのは、起業家精神とスピード感。
語りつくされた言葉だが、しばらく続いた好況と突然襲いかかった
経済危機のなかで、いま一度、胸に刻む必要がある。
ngiの小池氏は、「枯れた日本」でも開拓の余地はまだある。
「モバイルはまだ、やれることがたくさんある。
パソコンでできて携帯電話でできないことは、たくさんあるでしょう。
シニア層も、まだネットを使いこなせていない」
小池氏自身は、次のネット事業の大きな流れとして「3Dによる仮想世界」に注目、
ngiでは関連ビジネスに積極的に資金を投じている。
「インテルは、半導体をたくさん売りたい。
IBMは、たくさんのサーバーを使わせたい。追い風は来るはず」
仮想世界も、セカンドライフにより広がった米国発のサービスだが、
「図書館に行ってパラパラ本をめくったり、マンションのモデルルームに
家具や家電製品を並べて日当たりまで確認したりと、
セカンドライフよりずっと利便性を感じられるものになる」と予想。
ただ、と付け加えた。「普及には時間がかかる」
野村総合研究所が12月中旬に発表した中期予測によると、
消費者向けの電子商取引(EC)やネット広告、音楽配信などを含む
国内ネットビジネス市場は、2008年度の約9兆1000億円から、
2013年度には約16兆円へと約2倍近く拡大する。
特に伸びが大きいのが、モバイル向けのEC市場で、
ネット広告も伸び率は鈍化するが成長を続ける。
景気が後退しているとはいえ、米国発のサービスや製品が日本への上陸を
続けるのは、日本のネットユーザーが新しいサービスに対して貪欲で、
潜在的な市場が大きいと見ているため。
世界で勝負できる企業が少ないといわれ続けてきた日本のネット企業。
このまま挑戦し続ける意欲さえも失ってしまえば、世界進出はおろか
海外の企業に残された市場を奪われてしまう。
2009年は、次の成長に向けた種をどれだけまけるかが勝負に。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMITzz000026122008&landing=Next
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