2009年12月25日金曜日

「クライメートゲート」が迫る覚悟

(日経 2009-12-21)

今年最もメディアを騒がせたニュースは何だったか?
国内なら、間違いなく政権交代後の日米関係やデフレ、
松井秀喜のエンゼルス移籍かもしれない。
世界に目を転じれば、「クライメート(気候)ゲート」ではないか。
え、聞いたことない?

「気温の低下を隠すトリック(データ操作)を終えた」。
地球の温暖化研究で知られるフィル・ジョーンズという英大学教授が、
米研究者にあてたメールがネット上に流出。
同教授が務めるイーストアングリア大学のコンピューターから、
そのほか10年分以上ものデータが流出。
一連の「事件」を、ウォーターゲートならぬクライメートゲートと呼ぶ。

メールの中身に反応したのは、温暖化現象が人為的だという
事実そのものに懐疑的な科学者たち。
以降、欧米では大騒ぎになり、
連日、メディアが競って成り行きを取り上げた。

温暖化人為説の支持者たちは、流出事件が計ったように、
第15回気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)の
直前だった点にざわめいた。
「ロシア情報機関の仕業じゃないか」、
「石油が温暖化の元凶のように言われ、劣勢に立たされていた
中東某国が関与した」
そんな憶測が、まことしやかにネット上などに広がっていった。

開幕当初は、COP15も揺れた。
政府間パネル(IPCC)のパチャウリ議長は初日、
同パネルの信頼性が揺らぐことを懸念し、
「透明性と客観性は保証されている」と機先を制している。
ジョーンズ教授は、IPCCに深く関係していた。

日本では、あまり話題にならなかった。
流出したメールの信ぴょう性や背後にある政治的意図が
見え隠れしたためかもしれない。
「温暖化は、どんなことがあってもよくないこと」との考えが
日本人には強い背景も。
調査機関によれば、人為的温暖化説を信じる人は
米国が6割弱、日本は9割にものぼる。

米欧と日本の温度差が大きければ大きいほど、
CO2削減を巡る目標水準の差と重なって見えてくる。
日本の鳩山政権は、25%削減を打ち出すことで、
国際交渉でイニシアティブをとる考え。
米国や、中国ほか新興・途上国は、高い目標にあくまで消極的。
日本だけが突出してしまう結果に。

日本では、産業界が自国の「突出」に反発。
恐らくクライメートゲートについても、政府に対し各国での報道ぶりを
詳しく紹介し、25%への慎重姿勢を促していたに違いない。

クライメートゲートは、米欧の中の利害対立の構図を浮き彫りに。
排出権取引など、地球温暖化を巡る金融取引や環境関連企業など
への出資を通じて、利益を上げそうな国や人々。
石油産出国のように、時代に逆行しかねない国や人たちの2つ。

前者には多分、元米副大統領のアル・ゴア氏や著名投資家の
ウォーレン・バフェット氏、米欧金融機関が入る。
「環境ビジネス」と一口に言っても、政治や経済の複雑な人脈、
世界とのかかわりを抜きには語れない。
100年に一度のエネルギーと製造業革命が起きようとしているだけに、
日本企業にもそれなりの情報武装と覚悟が必要。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan091218.html

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