2010年10月7日木曜日

インサイド:次代の針路 第3部 子どもの体力/4

(毎日 9月24日)

横浜市青葉区の市立つつじが丘小学校。
日焼けした青年が、職員玄関から入ってくるのを、
子どもたちは目ざとく見つけた。
「あっ、近さんだ!」。
たちまち輪の中にうもれたのは、横浜市体育協会の近佑治さん(28)。
週に一度、35分間の昼休みを使って、子どもたちに遊びを教えている
「遊びのお兄さん」。
この日は、「ダブルダッチ」と呼ばれる2本組みの縄跳びと、
軟らかいフライングディスクを使ったゲーム「ドッヂビー」を教えた。

4年生の笹木美来さんは、「縄跳び、最初は全然跳べなかった。
今は(連続で)16回も跳べるの。すごくためになる」と目を輝かせた。
近さんのほか、ボランティアの保護者と上級生が指導に当たり、
基本的に教諭はかかわらない。

ボランティアの一人、西川一江さん(43)は、
「子どもを狙った犯罪も多く、外で遊ばせるのは抵抗がある。
(ここでは)子どもたちの様子も見られるし、何より安全なのでありがたい」
外で遊ばせない傾向は、体力低下と密接にかかわる。

06年、改定された国のスポーツ振興基本計画には、
目標として「子どもの体力向上」が加わった。
横浜市の場合、05年度の全国体力・運動能力調査をみると、
同市の小学生が全国平均を上回ったのは96項目中、
4年男子の握力など5項目だけ。
市体協の職員は頭を抱えた。

市内を視察して気づいたのが、休み時間に閑散としている
学校のグラウンド。
大阪教育大付属池田小学校で起きた無差別殺傷事件(01年)以降、
教諭の目が届きにくい休み時間は、グラウンド使用に
消極的になっている実態が浮かび上がった。
その中で生まれたアイデアが、休み時間に体協職員が
遊びを教える「出前授業」だった。

市体協では、07年度から3年間で延べ134校、
1908回の出前授業を実施。
永嶺隆司・地域スポーツ支援担当課長は、
「放課後や休日は参加率が低く、体育の時間は先生たちの領域。
休み時間は子どもたち全員がそろっており、
(授業と放課後の)すき間を狙った」と自信を深める。

学校まで出向いて、子どもたちに遊びを教える活動は、
まだなじみが薄い。
安全上の理由で、外部の人間の立ち入りを拒んだり、
「学校のことは教師がやる」と、市体協の活動に難色を示す学校も。

つつじが丘小の小正和彦校長は、
「学校外のリソース(資源)を活用することは重要。
子どもにとって、親でもなく教師でもない大人とかかわることは
刺激につながる」と理解を示す。

小正校長は、児童の体力低下を「二極化」ととらえている。
「意識の高い家庭では、野球や水泳などをさせ、体力も充実。
一方、(放課後の生活を)子どもに任せっきりの家庭では、
テレビゲームなどに走りがちだ」と指摘。
その結果、平均値として体力が低下していると憂える。

「子どもたちは本来、集団で遊ぶことが好き。
集団での遊びは、体を動かさない子どもたちを引っ張り出す効果もある」
と小正校長。
近さんも、「体を動かすことは楽しい、と思ってもらいたい」と期待。

休み時間を活用した“遊び指導”。
運動の「きっかけ」づくりを狙った地道な活動が続く。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100924ddm035050139000c.html

0 件のコメント: