2010年10月5日火曜日

インサイド:次代の針路 第3部 子どもの体力/2

(毎日 9月22日)

熊本市の住宅地の中にある公園。
気温30度以上の暑さが残る夕方、40歳代の男性が熱心に、
小学2年生の男子に、鉄棒の逆上がりを教えていた。

「もっと強く棒を握って」、「棒を握る手の間を広くした方がいいよ」
一見、親子のように見える会話だが、
実は2人は、体育の家庭教師と教え子という関係。

「ナガタスポーツ家庭教師サービス」を開業した永田淳一さん(42)。
以前は、事務職員をしながら地元の高校で、
野球部やソフトボール部の監督を務めていたが、
県教育委員会への異動で、子どもを指導する機会がなくなり、
05年に会社を設立。

現在、教えているのは約30人。
内容に決まったものはなく、子どもの要望に合わせる。
夏休み前になると、水泳指導が増え、運動会前はかけっこ、
鉄棒やキャッチボールなどを指導することも。
マンツーマン指導なら、60分間で2500円、
90分間で3000円という料金設定。

熊本県は、09年度の文部科学省の全国体力・運動能力調査
(体力テスト)で、握力やソフトボール投げなど8種目の体力合計点が、
男子では全国平均54・19を上回る55・25で、
全国でも上位に位置づけた。

永田さんは、「こういう地方でも、遊ぶ場所が少なくなっている。
ゲームなどの誘惑は、全国どこでも変わらない」と危機感。
当初は、ビジネスが成り立つか不安もあったが、
運動のできない子どもたちが多いことを実感。

体育の家庭教師は、90年代に東京など都市圏で始まった。
当初は、私立の幼稚園や小中学校の受験対策としてだったが、
次第に勉強の家庭教師のように、一般家庭に広まった。
インターネットの普及で、情報が入手しやすくなり、
最近は増える一方。
東京近郊だけでも、20社以上の業者がある。

世田谷、杉並両区で、体育の家庭教師を派遣する
「トライ&サポート」は、開業から3年間で、会員数が短期も含めて
150人に達しようとしている。

社長の海老沢美由紀さん(36)は、「親、兄弟、先生、
近所のお兄さん、お姉さん。
体育の家庭教師は、その子によっていろいろな代役をしている」

高校まで剣道の経験があり、教師を目指して体育大に通った。
イベント会社に勤めていたが、子どもたちに教える夢をかなえるため、転身。

巡り合った子どもたちは、さまざまだった。
自転車を使った学校行事を前に、自転車に乗れるようになりたいと、
駆け込んできた高校生。
スイミングクラブの昇級試験のため、水泳の補習に来る小学生、
やはり運動会前は、かけっこの需要が増える。

海老沢さんは、「できないのではなくて、教えられていない子が多い。
だからと言って、小学生にいきなりトレーニング形式で
教えようとしても、拒否してしまう。
あくまでも、遊びの延長の中でやらないと通用しない

かつて、鉄棒や自転車、キャッチボールなどは、
親や兄弟姉妹、友達との遊びの中で覚えてきた。
現代では、その遊びが消えようとしている。
広場が少なくなり、塾通いに追われて時間がない。

遊びに必要と言われている「空間」、「時間」、「仲間」の「3間」。
体育の家庭教師は、失われたものの一部を取り戻す産業になっている。

http://mainichi.jp/enta/sports/archive/news/2010/09/22/20100922ddm035050091000c.html

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