2010年10月6日水曜日

唾液で疲れ測定 ヘルペスウイルスの量に注目、1年以内に実用化へ

(2010年9月24日 毎日新聞社)

だるい、眠い、体が重い--。
日本人の6割が感じている疲れは、痛みや発熱と同様、
体の異常を知らせるアラーム。

これまで客観的に測る物差しがなかったが、
最近新たな測定法が開発されつつある。
その一つが、唾液中にいるウイルス量を調べるというもので、
1年以内に実用化できそう。

会社員の女性(32)は、昨年の育児休暇中に味わった
悔しい思いが忘れられない。

昼夜を問わない乳児の世話で、へとへとに疲れていたが、
「仕事を休んで家にいるんじゃないか」と、
夫は家事も育児もほとんど手伝ってくれなかった。
「いくら『疲れた』と口で言っても、説得力がなくて困った。
『これだけ疲れているから手伝って』と、数値で示せる材料が欲しかった」

疲れは、これまで客観的な指標がなく、どのくらい疲れているのか、
自己申告に頼るしかなかった。

東京慈恵会医科大の近藤一博教授(ウイルス学)は、
疲れと疲労感は違う。
疲労感は、報酬や達成感などで吹き飛んでしまうこともあるが、
疲れは、体を休めないととれない」

自己申告では、主観的な「疲労感」は測定できるが、
その人の本当の心身の「疲れ」はなかなか分からなかった。

近藤教授らのグループは、疲れると唇にヘルペスという
水疱ができるのをヒントに、ウイルスを使った新たな疲労の
測定検査を開発。

唇のヘルペスは、ヘルペスウイルスの一種が引き起こす。
このウイルスの仲間は、通常体内に潜伏し、疲労が蓄積するなど
宿主の体が危機的な状況になると、別の体に移動しようとして
再活性化し、口の中に集まってくる性質を持っている。

近藤教授らは、この仲間の中でも、ほぼ100%の日本人が
乳幼児期に感染し、突発性発疹を引き起こす
HHV6とHHV7の唾液の中の量を測っている。

HHV6は一時的な疲労、HHV7は慢性疲労の測定に適している。
検査では、4cm弱の円筒形のコットンを約3分間、
かまずに口に含んで唾液を吸収させ、専用容器に入れる。
近藤教授の研究室では、唾液中からウイルスDNAを分離、
量を調べている。

近藤教授らが、定時の仕事をしている事務職の20人と、
1日5時間以上残業している営業や研究職の40人の唾液で
ウイルスの量を測ったところ、定時の人では唾液1ml中のHHV6が
平均500個、HHV7は平均5000個、
残業が多い人では、どちらも10倍以上検出。
残業が多い人ほど、ウイルス量も多かった。

これまでの調査では、若手のサラリーマンや工事現場で働く
作業員は、どちらかというとHHV6が高い傾向、
年配の管理職の会社員は、HHV7が高い人が多かった。
近藤教授は、「疲れは、すべての病気のきっかけになる、
といっても過言ではない」

HHV6が高い人は、一時的な体の疲れなので、1日ゆっくり休むこと、
HHV7が高い人は、疲れが常態化しているので、
生活そのものを見直した方がいいとアドバイス。

現在、HHV6とHHV7を使った検査を受けられるクリニックの
開設準備が東京都内で進み、1年以内には一般人も
検査を利用できるようになる(自由診療)。

疲労に関する国内の調査では、文部科学省研究班が04年、
大阪府内に住む1万人(有効回答2742人)を対象に実施、
56%「現在疲れている」、39%「疲れが半年以上続いている」。

厚生労働省は09年、客観的な疲労の評価法と診断指針の作成を
目指す研究班を発足。
HHVをはじめ、自律神経のバランスや、血液中の活性酸素の
割合などを測定する検査を組み合わせ、
新たな疲労の診断方法の確立を進めている。

班長の倉恒弘彦・関西福祉科学大教授は、
「内科では、体温や血圧、血液中の白血球の数などで診断するが、
疲れにはこういう指標がなかった。
疲れを評価する複合的な物差しが出来上がれば、
その人にとって、何が最も適切な治療なのかもわかる。
全国のどの病院でも、適切な疲労の診断ができるようにしたい」

11年度にも、研究結果をまとめる予定。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/24/125991/

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