2010年12月12日日曜日

インサイド:大河流れて 総集編 アジア大会で見えたもの/3

(毎日 12月2日)

9対24と、あやうくトリプルスコアの大差がつくところだった。
今大会、日本と中国の競泳チームが取った金メダルの数。
前回ドーハ大会は、16対16の「引き分け」。
4年で激変した勢力図の背景には、外国人コーチの存在が透けて見える。

「海外の経験あるコーチに育てられると、正直に言って脅威だ」
日本代表の平井伯昌コーチは、そう言って危機感を募らせる。
今大会に登録された競泳の中国代表コーチ陣に、外国人の名前はないが、
選手たち約20人は定期的に2組に分かれて渡豪し、
オーストラリア人コーチの指導を受けている。

中国だけではない。
男子自由形で、2大会連続3冠を達成した韓国の英雄、
朴泰桓(パク・テファン)のコーチもオーストラリアのマイケル・ポール氏。
他を圧倒する朴の泳ぎは、ポール氏の存在なくしては語れない。
「日本以外のほとんどの国は、欧米などから外国人コーチを招請している」
国境を超えた指導は、今や常識となりつつある。

◆流動化の波アジアに

国同士の争いの様相が濃い国際スポーツ界で、
外国人コーチが増え始めたのは、旧東側諸国が崩壊後の90年代前半。
社会主義国家では、国威発揚につながるスポーツ選手やコーチに、
国家による手厚い支援があったが、体制崩壊とともに彼らは
生活の糧や活躍の場を求めて、西側諸国へ移った。
プロとして雇われた指導者が、欧米各国を渡り歩くようになり、
コーチの流動化が進んだ。
その波は、ついにアジア諸国にも到達。

中国選手団は今大会、全競技で計20人の外国人コーチをエントリー。
その中には、日本のシンクロナイズドスイミング指導の第一人者、
井村雅代さんの名前も。
数年前まで中国のシンクロは発展途上だったが、
井村さんが指揮した北京五輪のチームで、銅メダルを獲得。
今大会は、全3種目で金メダルを手にした。
かつて、日本の「お家芸」ともいえたシンクロで、
日中の立場は完全に逆転した。

その中国ですら、コーチが外国に流出している。
今大会の飛び込みで、銀と銅合わせて9個のメダルを獲得し、
中国に次ぐ2位につけたのはマレーシア。
同国の飛び込みコーチの大半が中国人。
それだけの人材が流出しても、中国の競技レベルには変化がない。
指導者の層の厚さもうかがえる。

◆育成との両立を

一方の日本。
外国人コーチの招請は、競技団体によって温度差があるのが実情。
ある競技団体のコーチが、「外国人コーチに育ててもらうと、
中(自国)のコーチが育たなくなるのではないか」と言う通り、
国内での指導者育成に重きを置く意見は根強い。

コーチ陣4人を外国人で固めたフェンシングは、目覚ましい実績を残した。
オレクサンダー・ゴルバチュク氏(ウクライナ)が専属コーチを務める
女子エペは、団体で大会史上初の優勝を果たした。
北京五輪では、フルーレで同じウクライナ人の
オレグ・マツェイチュク氏がコーチとなり、
太田雄貴(森永製菓)が銀メダルを獲得。
その後、エペとサーブルにも外国人コーチを招請した強化策が結実した形。

自前のコーチ育成と、レベルの高い外国人コーチの活用。
その両立ができなければ、世界の潮流にのまれかねないことを、
今大会の成績は雄弁に物語っている。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20101202ddm035050092000c.html

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