2010年12月13日月曜日

インサイド:大河流れて 総集編 アジア大会で見えたもの/4

(毎日 12月3日)

水色のユニホーム姿の選手たちは、
何度も先頭でフィニッシュラインを駆け抜けた。
陸上競技が行われた広州・奥体スタジアムに吹き荒れたインド旋風。
大会終盤の女子1600mリレーで3連覇を果たし、
陸上だけで五つの金メダルを獲得。

象徴的だったのは、女子長距離の躍進。
日本が、過去全6大会でメダルを獲得してきた女子10000mで、
2連覇を狙った国内第一人者の福士加代子(ワコール)は、
インド勢のラストスパートに屈した。

優勝したプリージャ・スリードハランは、5000mでも銀メダル。
10000m銀のカビタ・ラウトも、5000mで3位と、実力は本物。
日本は、中国やアフリカ出身選手が国籍を取得した中東勢を
警戒していたが、インドの強さは全くの想定外。

日本陸連長距離・ロード特別対策委員会の河野匡副委員長は、
「インドの実力は未知数で、正直驚いた。
アジアの経済が発展する中、どの国のレベルも上がっている」と
現実を受け止めた。

スリードハランらを指導するベラルーシ人コーチは、
「インドには、才能豊かな選手があふれている」と自信。
外国人コーチを招いた強化も実ったようだ。

◆政府が多額報奨金

競技別にみると、陸上で11個、ボクシングで9個、射撃で8個の
メダルを獲得、テニス男子ではソムデブ・デブバルマンが
シングルスで初優勝、ダブルスと合わせて2冠。
ゴルフでも、男子団体で銀メダルを手にするなど、
プロスポーツでも実績を残した。

全体では金14、銀17、銅33と、メダル総数は過去最多の計64個。
金メダル数の順位では、前回ドーハ大会の8位(10個)から6位に上昇。
政府は多額の報奨金も用意し、インドメディアによると、
スリードハランは10000mの金メダル獲得で、
12万5000ドル(約1050万円)を得る。

躍進の背景には、10月に初めて自国開催した英連邦大会の存在。
4年に1度のビッグイベントに向けた強化が実り、
金メダル38個を含む、計101個のメダルを獲得。
金メダル数は、オーストラリアに次ぐ2位で、
イングランドやカナダなどを上回った。

◆躍進大国化「手段」に

インドは、伝統的に肉体より精神を重視、
スポーツよりも勉強を優先する価値観が根強い。

インドの社会事情に詳しい亜細亜大非常勤講師の関口真理さんは、
「経済的な成功に見合うように、スポーツも強化すべきだという
意識が強くなった。
スポーツの強さを、一流国の証しととらえている

昨年10月、インドの国際オリンピック委員会委員が、
ニューデリーで24年夏季五輪を開催したい意向を表明。
インドには、主要新興4カ国(BRICs)の中で、ブラジル、ロシア、中国に
五輪開催実績(予定を含む)で取り残された危機感があり、
英連邦大会は、成功をステップに、将来の五輪招致へつなげる思惑も。

大会をめぐっては、巨額の準備資金が不正に使われたとの
汚職疑惑が浮上。
大会経費は、当初見積もりの20倍の約70億ドル(約5880億円)で、
過去最高に膨れあがったとの批判もあり、混乱が続いている。

約12億の人口を背景に、経済的発展を続けるインド。
政府は先月30日、7~9月期の実質国内総生産(GDP)は
前年同期比8・9%増と発表、経済の好調さに陰りはない。
スポーツを大国化の手段として位置づければ、
ひずみが生じる危険性も否定できない。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20101203ddm035050126000c.html

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