2011年2月4日金曜日

スポーツ政策を考える:日本アンチ・ドーピング機構アスリート委員長、田辺陽子

(毎日 1月29日)

スポーツ界は今、若者へのドーピング(禁止薬物使用)
防止教育を重視している。

私は昨年8月、IOCが新設した若者の祭典、
第1回ユース五輪(シンガポール)を視察。
選手村には、世界反ドーピング機関(WADA)が設置したブースがあり、
選手は、パソコンのゲームで反ドーピングの大切さを学んだ。
簡易な形だが、関心を持つ入り口としてはいい。

WADAが設立された当時、検査手法の確立が主なテーマだったが、
10年余りを経て、若者への教育・啓発という次のステップに移っている。

日本アンチ・ドーピング機構(JADA)も、
10年にアスリート委員会を発足、教育に力を注いできた。
メンバーは10人。
競泳の鈴木大地さん、スピードスケートの黒岩敏幸さんら元トップ選手や、
アーチェリーの山本博さんら、現役の選手も含まれている。

トップ選手が、自分の学んだことを若い世代にどう伝えるか?
ユース五輪期間中、選手が取り組んだ教育プログラムで、
最も人気があったのは「チャンピオンとの会話」。
トップ選手が発する言葉は、若い選手には、より伝わりやすい。

JADAには、五輪やアジア大会に参加する全競技団体を含め、
73団体が加盟。
教育・啓発グループもあり、昨年10月に国体の会場にブースを
設置して啓発したのは、新たな試みだった。

今年度は、延べ19人のトップ選手が教育・啓発グループと連携し、
講習会などに参加。
教育の価値は数値では表せないが、
選手自身が活動にかかわることが一番大切。
それが将来の土台になる。

日本では、ドーピングを「対岸の火事」のように感じる人も。
海外の若者は、意識が高い。
米国であった競泳のジュニア大会では、会場にブースがあると、
必ず選手の側から、「新しい情報はないか」と情報を取りに来る。

年代ごとに何を重視して伝えるか?
中学生は、フェアプレーの精神、高校生は、健康被害の実態について
教えるべきだ。
トップ選手には、より実践的な検査の情報を伝えなくてはならない。

反ドーピングの理念は、最終的にはスポーツの価値、
フェアプレーの精神へと行き着く。
それは、五輪の精神でもある。
私は柔道の選手だった。
武道の精神と反ドーピングの理念は、重なるところもある。

注目されるスポーツ基本法の中に、反ドーピング教育の重要性を
明確に位置づけてほしい。
選手だけの問題ではなく、スポーツに関わるすべての人が
取り組むべき課題だからだ。
こうした活動に携わる選手を、もっと評価する仕組みも必要。
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◇たなべ・ようこ

1966年生まれ。
柔道女子72kg級で、88年ソウル大会から五輪に3大会連続出場、
銀2、銅1のメダルを獲得。
現在、母校の日大で法学部准教授と女子柔道部監督を務める。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2011/01/29/20110129dde035070029000c.html

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