2008年4月24日木曜日

スポーツと環境~[第1回] 有森裕子さん 『あなたの走りが世界に通じる』

(SSF 08.02.06)

―有森さんが環境問題を意識し始めたのはいつから?

1996年頃に、車の環境エンジンのCMに出たこと。
マラソンランナーはレース先導車の後方を走るので、一番排気ガスに近い。
普通車のCMの依頼もあったが、ランナーが汚い空気を吸わなくていいように、
ランナーからのメッセージという意味で、環境エンジンの方に出演。
そのお陰か、最近の先導車はほとんどがエコカーですね。

ランナーの立場でスポーツと環境を考えると、まずは空気。
都心の空気ではとても練習できないので、合宿は緑と土のあるところに。
アウトドアで活動する人間は、“自然を感じ、きれいな空気で
よい血液を作って、それをパワーに変えていく”というイメージがある。

―オリンピックや海外の大会で、環境への取り組みを肌で感じるような経験は?

2005年のヘルシンキの世界陸上では、日本車のエコカーが進出。
環境エンジンでは、日本のものがダントツだと思います。
フィンランドは、ヨーロッパでも最も環境を考える国。
大会グッズやパンフレットなど、ものをたくさん作り過ぎない。
日本でも、大会グッズは最低限に抑えてもいい。
一つのものに、協賛各社の名前が入るようなグッズをオフィシャルで作るとか。
パンフレット類も、「欲しい人は持っていって」というバイキング方式でいい。
コストも削減できる。
無意識にもらって捨てるだけということを疑問に思い、
必要なものを自分で選ぶ意識を持つことが大事
「環境を考え、必要な資料だけお持ちいただいてます」っていう
大会コンセプトをきちんと打ち出せば解決する。

マラソン大会って、至れり尽くせりじゃなくてもいい。
とても不自由で不親切な大会だって山ほどあるけど、みんな走れればいい。
大会運営に文句つけに行ってるわけじゃない。
運営を丁寧にやればやるほど、みんな探すんですよ。
「あっ、これが欠けてるぞ」なんてね。
そんな意識を持つより、自分から楽しむ姿勢が本当は大切。

NPO法人「ハート・オブ・ゴールド」では、どんな活動を?

カンボジアで、チャリティのためのマラソン大会を開催するなど、
スポーツを通して子どもたちへ様々な支援。
この活動も、2007年で12年に
ポル・ポト政権の傷跡が残るカンボジアでは、
日々生きていくことが最優先で、まだ環境問題を考える余裕はない。
ポル・ポト政権で壊されたものの中に、森や山などの自然環境もある。

「ハート・オブ・ゴールド」のツアーで必ず見せるものがあります。
スモーキーマウンテン」と呼ばれるごみの山。
先進国で不法に捨てられたごみ、特に電化製品などの家電ごみから
必要な部品だけをとって、残った部分を廃棄。
山積みになったそのごみが自然発火して、いつも煙が出ている。
アジアの貧しい国のほとんどは暑いから、悪臭は本当にひどい。
貧しい子供たちが、そこで裸足で仕事をしています。
事故も起こって本当に危険なんですが、
そういう現実は、ほとんどの日本人には知られていない。
今まで彼らは、食べかすのごみはそのへんに捨てていた。
捨てたら、地に還るものしかなかった。
でも最近は、プラスチックやペットボトルなんかが生活の中に増え、
捨てても自然に還らず残る。
雨季になると、雨水がたまって、ボウフラが大発生して、デング熱が広まる・・・

私は、「ハート・オブ・ゴールド」の活動がなくなることを願っています。
必要とされなくなる事を願います。
それは、カンボジアの問題がなくなることですから。

―スポーツ愛好者ができるエコ、リサイクルについて

ランナーは、たくさんのシューズやウェアを使います。
贅沢にも現役選手の頃は、1回限りで使わなくなったりしていました。
捨ててしまえばごみですが、私の住むコロラド州のボウルダーでは
それをアフリカに送っているスポーツ店があります。
南アフリカ出身の元選手が中心になって運営している
「ボウルダーランニングカンパニー」というお店。

「ハート・オブ・ゴールド」でも、スポーツ用品をカンボジアに送っています。
学校教育で、保健体育科を作る運動をしていて、指導要領ができたところ。
必要となったボールなどを日本から送っています。

いずれも送料が膨大にかかる。コンテナの保管料もかかります。
ものを寄付するだけじゃなく、チャリティの気持ちを載せて、
ワンコインでもいいからそえてほしい。
東京マラソンなら、東京という日本を代表する都市を開放して走る大会から、
チャリティの心を世界に送り出そうという気持ちも一緒にください
“マイシューズ・プラス・ワンコイン”、“プラス・マイマインド”。

ニューヨークシティ・マラソンでは、ランナーがスタート直前まで来ていた服を、
走り出す時に脱いで大会に寄付します。
スタートまで長い時間待つランナーにとって、取り組みやすいチャリティ。
日本なら、「私の服をどうしてくれるんだ」って言われそうですけど、
メッセージを出し、場所を確保すれば、賛同してくれるランナーは大勢いる。

―最後に、東京マラソンを走るランナーへのメッセージを。

自分のベストを尽くしてほしいのと同時に、
自分の走りがいろんなところにつながり、いろんなメッセージが流せる、
ということを楽しんでほしい。
マラソンへの参加をきっかけに、様々な問題解決にもっと協力し、
考えを持っていってほしいと思います。
『あなたの走りが世界に通じる』、ということを忘れないでほしい。

http://www.sfen.jp/opinion/athlete/01.html

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