2008年4月25日金曜日

スポーツと環境~[第2回] C.W.ニコルさん 『まずは身近な自然を大切に』

(SSF 08.03.11)

―ニコルさんとスポーツとの関わりは?

僕は、チームスポーツというものには全く興味がなかった。
野球、フットボールは、今でも30秒以上テレビで観たことがない。
スクール時代も、スポーツの授業は全くだめでした。
反対に、格闘技は好きでした。
12歳で柔術を始め、日本に来たのも空手を習うため。
空手の型の美しさに燃えました。道場の中での友情も素晴らしかった。
カヤックやローイングなどのアウトドア、ハンティングなんかも大好き。
僕にとってスポーツとは、あくまで目的達成のための手段。
楽しむため、ゲームのためのスポーツはやらない。

―最近は、山道を走るトレイルランをやる人が増えています。

人口が増えることによって、自然破壊を心配する声も
トレイルランや、マウンテンバイク、クロスカントリースキーなどは大賛成。
どんどんやったらいい。山や森をもっと利用すべき。
自然と触れ合うことで、その豊かさ、尊さを知り、保護意識が高まる。

ロードを走るランナーは、僕くらいの年になると必ずひざを壊しています。
アスファルトの硬さに比べ、山道は土やチップ(木くず)で、
柔らかくて足に負担がない。いつまでも健康的に走ることができます。

自然の中で活動するには、守るべきルールがあります。
例えば、黒い服を着て山に入るのはいけません。蜂に襲われる。
川沿いの道を歩くとき、半袖や半ズボンで行くのもだめ。ブヨに刺される。
自然の中でしていいこと、悪いこと、その知恵が必要。

―自然の中でスポーツを楽しむためのルールもありますか?

もちろん。僕の生まれ故郷・ウェールズには、3万ヘクタールの自然林があり、
中心の1万1千ヘクタールは、「アファン アルゴード森林公園」といって、
その中にマウンテンバイクや散歩のためのトレイルがあります。
道を侵食しないため、マウンテンバイク用の道は幅80cm、
ウォーキングやランニング、車いすでの散歩をする道は幅2m。
もとはボタ山(炭鉱)の跡地でしたが、
地元のボランティアの努力によって、美しい森が生まれたところ。

その森林公園には、「散歩の処方箋」というのがある。
ウェールズは、生活習慣病の患者が多く、治療の一つとして導入。
日本でも、警察病院の本間医師が、森を散歩した生活習慣病患者の
症状がどう変わるか調べた。
結果、患者全員の血圧が安定し、免疫力が15%上昇、NK細胞も増加した。
山道は、地面がチップで柔らかいですから、患者の脚への心配はない。
ウェールズでは、最初のうちは患者を心配して、携帯電話を持たせた。
ところが、これはすぐにやめてしまった。
待機しているレンジャーに、ひっきりなしに電話がかかってくる。
「珍しい鳥を見たぞ」、「この花は何という名前なのか?」、
心配していたのとは逆の事態でしたね(笑)。

日本の病院でも、患者に運動を勧めるが、スポーツジムの利用が中心。
でも、自然の森にかなわないこともある。
森には木があり、天然のアロマがあり、自然な音や涼しさがある。
スポーツをするのに、こんないい環境はない。
カナダの国立公園で仕事をしていた頃、デスクワーク中心でしたが、
昼休みの1時間は必ず広大な公園の中で過ごしました。
ランニングコースを設定し、太い木の枝で懸垂やジャンプしたりして、
自然のトレーニングジムを考えた。とてもよいリフレッシュになりました。

―日本も自然豊かな国ですが、なぜそのような習慣ができないのか?

オフィスワーカーの集まる都市に、公園が少ないことも一因。
カナダのバンクーバーは、都会と自然が調和した素晴らしい都市。
自然林が残されて、日本みたいにヒートアイランドになることもないし、
オフィスワーカーたちはこぞって自然の中に出て行きます。
大きな川が流れ、夏は昼休みにひと泳ぎしてからオフィスに戻る人も。
日本も、本当に人が心豊かにしあわせに暮らすために、
自然と調和した都市の在り方を考えた方がいい。

日本は、他国に比べ、レンジャーの数が圧倒的に少ない。
レンジャーとは森林保護官、公園監視員といった職業、
カナダに約4,500人、アメリカ約9,000人、ケニア約3,000人。
日本には、200人ほどしかいない。
それもほとんどはデスクワークをする人。
彼らは森の歩き方、自然との接し方において、レンジャーにはかないません。

―自然と接する知恵は、子どもたちにこそ必要では?
SSFでは、子どもたちの長期のスポーツキャンプを開発・支援する事業を行う。
子どもと自然の関係というのは、どうお考えですか?

以前からずっと提案したいことがありました。
小学校の校庭、トラックの周囲に、木を植えてトレイル(道)を作る。
土ではなく、チップを敷き詰める。
子どもたちは涼しい木陰で走ることを楽しみ、木を育むことを通じて
自然とのふれあいを体験できます。
スポーツの授業は、より健康的に、楽しくなるでしょう。

もう一つ、僕にはやりたい事があります。
「森林棒術」とでも名づけましょうか。
レンジャーが使うような1本の棒を使い、森を歩くルールを確立したい。
子どもたちや高齢者、生活習慣病患者のように、足腰や腕力が弱くても、
棒を使えば段差を乗り越えたり、道をふさぐ障害物を取り除いたりできます。
自然の中で生きる知恵の集大成です。
僕の棒術の先生は沖縄にいるのですが、その型を取り入れ、
武道としても完成度を高めたい。

山道を歩く方法については、2本のポールを使うノルディックウォーキング
のようなすぐれたエクササイズもあります。
エチオピアのレンジャーも、2本の棒を持ち歩いています。
棒が1本なら、片手が空くでしょう?
ただ歩くだけではなく、別の道具を使ったり何かを調べたり、
もっと応用がきくようになる。

―スポーツを愛する人たちに向けて、エコメッセージをお願いします。

まずは、身近にある自然を大切にすること。
自然の中でスポーツをすることは本当によいことですが、
時にそれは人を鈍感にさせます。ゴルフなどがいい例。
ゴルフは、世界が認める素晴らしいスポーツですが、
人間のマナーの悪さ、自然を破壊する傲慢さを、絶対に認めたくない。
自然と接するマナーを学び、自然を生かしていくことが大切。

「環境」がテーマの東京マラソン2008を走ったランナーの皆さんに、
“A true runner always remember the trail and leaves only good memories behind.
(真のランナーは、トレイル(道)のことをいつも心に留め、
そこに良い思い出だけを残していくものだ)”

http://www.sfen.jp/opinion/athlete/02.html

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