2008年4月21日月曜日

万能細胞 iPSの奇跡 (4)ES研究 重要性増す

(読売新聞 2008年2月24日)

「実験の結果次第では、別の研究に100%シフトしようと思っていた」
マウスの肝臓と胃の細胞からがん化しにくいiPS細胞の作製成功を
発表した山中伸弥・京都大教授は、そう言って安堵の表情を浮かべた。
より安全なiPS細胞を作れる展望が開けたからだ。

iPS細胞は、形や性質が胚性幹細胞(ES細胞)とよく似ている。
しかし、普通の細胞が、核移植のように極めて特殊な操作を経ず、
時の流れを逆行するように変化してできるのがiPS細胞の特徴、
そのメカニズムは不明のまま。

この謎に挑むのが、近畿大の松本和也教授
1996年にクローン羊ドリーの誕生で注目された核移植の技術を
駆使して、サルや牛などの動物実験で細胞の変化を追う。

核を除いた卵子に、普通の細胞の核を移すと、
核は受精直後と同じ全身を作り出す能力を持つ。
一方、iPS細胞は受精卵とは異なり、個体に成長する能力はない。
核移植は、iPS細胞より3日半から6日間、時間をさかのぼる。
この時間差に、秘密が隠されている」。

核移植は、職人芸のような技術が必要で、
実験を数百回繰り返しても1回成功するかどうか。

理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(発生・再生研)の
若山照彦チームリーダーは、核移植とES細胞の培養法を組み合わせて
クローンマウスを確実に作り出す技術を開発。
時間差の謎を解く研究の進展へ援軍として期待。

iPS細胞の登場で、ES細胞やクローンの研究は
衰退するかのようにも思われた。
しかし、重要性はむしろ増している。

サルのES細胞を作製した鳥居隆三・滋賀医大教授は、
「iPS細胞から網膜細胞などができれば、そこからが我々の出番」。
将来的に、ES細胞から拒絶反応の少ないサルや特定の病気のサルを作り、
iPS細胞から作った様々な細胞を移植し、治療できるかを試すのが目標。

神経分野で先駆的な研究を行う発生・再生研の
笹井芳樹グループ・ディレクターは、
人のES細胞とiPS細胞の培養条件などの比較・検討に余念がない。
「ES細胞の研究成果は、ほぼそのまま応用できそう」。

心臓や血管再生の研究に取り組む山下潤・京都大准教授は、
「数年のうちに、ES細胞と寸分変わらないiPS細胞ができるだろう。
それまでに、ES細胞で成果や技術を蓄積することが大事」。

日本で初めて人のES細胞の作製に成功した中辻憲夫・同大学教授も、
「ES細胞とiPS細胞は兄弟のようなもの。
双方の研究が並行して進めば、互いの長所を生かせる」。

http://www.yomiuri.co.jp/science/ips/news/ips20080224.htm

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